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あいちトリエンナーレ2010『ロボット版 森の奥』囲み取材

2010年09月06日

あいちトリエンナーレの開幕を飾って上演された『ロボット版 森の奥』の囲み取材が2010年8月19日(木)に行われ、アートマネジメント実践講座の研修生が取材に同席し、レポートとしてまとめました。人間とロボットによる世界初の演劇『ロボット版 森の奥』は大きなセンセーションを起こして終了しましたが、その作品をご覧になった方も、またならなかった方も、ぜひ関係者の生の声をお聞きください!

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取材当日、平田オリザ氏(作・演出/青年団主宰)、石黒浩(テクニカルアドバイザー/大阪大学教授)、黒木一成(ロボット側監督/株式会社イーガー代表取締役会長)の3名が取材陣を前に挨拶。平田氏は大阪大学でロボット演劇を共同制作することになったきっかけや、作品がめざす方向性などについて説明。石黒氏は「演劇は、研究室よりは日常に近い形での実験になったと思います。」と話し、人とロボットが自然なコミュニケーションをとるために演劇が役立ったことなどを紹介。黒木氏はコミュニケーションが言語伝達だけではなく、表情や動作で感情を伝えることも重要であると述べ、今後の製品開発に応用していきたいと語った。


Q:ロボットにこだわったわけはなんですか?囲み1.jpg

平田:芸術家ですから、「世界で初」ということがしたかった。商業ベースでやると何千、何億というお金がかかる。大学のフィールドがあってこそ、実現できたことです。いいおもちゃを与えられた感じです。中身は子供ですから(笑)。


Q:演出面での苦労はありましたか?

平田:最初の稽古の流れがつかめないときは、ちょっと戸惑いました。それは、ロボット側の技術者の方々も同じだと思います。技術者の方々は芝居の稽古なんて初めてでした。ロボットはプログラミングを2,3分で修正できることもあれば、1時間かかることもある。でも、直ったことは何度やっても、同じようにできます。人間の俳優にダメ出しして、1回でできたとしても偶然だったりして、次にやった時にはできなかったりします。


Q:俳優陣に戸惑いはありませんでしたか?

平田:私は俳優じゃないから分からないけど(笑)、たぶん、ないと思いますよ。ただ、ロボットは決まった動きしかできないから、人間側が間違えられないプレッシャーはありますよね。私の演出は「もう何センチ前に立って」とかなので、うちの俳優陣は「ロボットに対するダメ出しがいつもと一緒だな」と思ったみたいです。もともと、「頑張れ!」とかの精神論は言いませんから。「あいつは俺らのことをやっぱりロボットみたいに動かしていたんだ」と思ったのではないでしょうか(笑)。


Q:順調ですか?

平田:とにかく初めてのことですから。(比較できるものがないから)順調かどうかは分かりません。ただ、幕が開いて何かあっても、人間は何とかできるけど、ロボットは対応できないことが不安です。

石黒:そこが将来の課題ですね。プログラミング以外の臨機応変な対応ができるようにしたいですね。


囲み2.jpgQ:あえて名古屋を初演にしたのは何故でしょうか?

平田:呼ばれたから、というのが正直なところ。本当は観光などの面も考えて大阪で発表したかったのですが、私自身は芸術家で、ボーダーレス。どこが地元という考えはありません。
大学も会社(イーガー)も大阪でしたし、何より大阪には文楽という伝統がある。開催地にこだわらないということが結果として「ボーダーレス」という、今回のあいちトリエンナーレのテーマに沿ったものになったのではないかと思います。



Q:今回、「森の奥」を選んだ狙いとは何ですか?

平田:もともとは、以前、ベルギーの劇団に書き下ろしたものです。隣にいる石黒先生は「ロボットと人間」が、私の知り合いの類人猿の研究をしている教授は「ゴリラと人間」が、お二人の話を聞く限り、同じものだと思っているように思いました。これまで、ロボットを題材とした本や映画を観てきましたが、ロボットに対する偏見や人間との違いをテーマにしたものばかりでした。ですからこの作品では、ロボットが、人間と類人猿との違いについて語るというところに焦点をあてました。人間とは何だ?という、固定観念にゆさぶりをかけたい。


Q:何故、ゆさぶりをかけたいのですか?

平田:それが芸術だから、と思うからです。


本日は、お忙しいところありがとうございました。

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(アートマネジメント実践講座研修生T.Y)