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「ウインナ・オペレッタ 白銀の時代」の最後を飾るのは、カールマン作曲の3本の作品です。

エメリッヒ・カールマンは、ハンガリー生まれ。ウイーンで活躍しましたが、ユダヤ系のため第2次大戦中はアメリカに渡り、アメリカに帰化しました。前回紹介したレハールもハンガリー生まれですが、レハールよりもさらにハンガリー色豊かな作品を作りました。優雅なウィンナ・ワルツを縦糸に情熱的なチャールダッシュを横糸に、織りなす音楽は、私たちを夢の世界に誘います。また、アメリカの軽音楽の影響を受けたフォックストロット(社交ダンス)も取り入れています。セリフ入りの歌芝居としてのオペレッタは、その後ミュージカルへと姿を変えていきます。カールマンのオペレッタは、かなりミュージカルに近いと言えます。

 

エメリッヒ・カールマン(1882-1953)

カールマンの最高傑作は『チャールダッシュの女王』(1915年)です。むせびなくヴァイオリン、もの憂いジプシー音楽の響き、そして情熱的なチャールダッシュ。ウインナ・オペレッタの魅力が凝縮されています。チャールダッシュとは、ハンガリーの民族舞踊です。ハンガリー語で「酒場」を意味し、ジプシー音楽では定番の形式。二つの要素から構成され、「ラッシュ」はテンポを落として抒情と哀愁を表現し、「フリスカ」では速く軽やかに情熱と躍動感が表現されます。浅田真央が2006-2007シーズン におけるフリースケーティング(FS)でチャールダッシュを使用したことでも有名になりましたね。

さて、さらに今回の映画は、映像もこのオペレッタ・シリーズの中でも最高傑作です。アンナ・モッフォ、ルネ・コロとも美男、美女を配し、脇も芸達者なサンドール・ネメスと可憐なダグマール・コラーが固めています。舞台セットも豪華です。楽しいストーリーと美しい音楽、そして踊りを素敵な映像とともに味わってください。日常の世界を忘れて、夢の世界を体験できるでしょう。

 

チャールダッシュ

Voivodina Hungarians (Kupusina and Doroslovo) national costume and dance.

ウインナ・オペレッタは第2次大戦後にはほぼ終焉します。その後は、ミュージカルが取って変わるのです。しかし、ウインナ・オペレッタは今でも生き残っています。ウイーンには「シュターツオーパー」という世界最高峰のオペラハウスがありますが、こことは異なり、庶民的な「フォルクスオーパー」というオペレッタ専用劇場があります。オペレッタはウイーン市民の心の中に生き、生活に溶け込んでいるのですね。ブダペストにも同様にオペラハウスとは別の庶民的な「ブダペストオペレッタ劇場」が市民に親しまれています。

 

ウイーン・フォルクスオーパー

 

実は、日本でも大正時代にオペレッタが一時はやったことがあります。「浅草オペラ」です。大正6年から関東大震災までの7年足らずの短い活動でした。もっと長く活動できれば、日本でもオペラやオペレッタが定着したかもしれませんね。

今回の上映会では、J.シュトラウス2世、レハール、カールマンの3人の代表作を取り上げましたが、アートライブラリーでは、その他にもオペレッタの名作が録音・録画とも多く所蔵しています。ぜひ、ご利用ください。  (A.M)  

 

ニューイヤー・ウインナオペレッタ映画上映会は、「金の時代」のJ.シュトラウス2世の作品は終わり、いよいよ「白銀の時代」に入ります。

時代は「世紀末ウィーン」とも呼ばれる、クリムト、フロイト、マーラーなどが活躍した20世紀初頭。この時代は文化が爛熟した時代。その中で大衆に人気を博したのが、ハンガリー生まれのフランツ・レハールのオペレッタです。

 

フランツ・レハール(1870-1948)

 

彼の最も有名な作品は『メリー・ウイドゥ(陽気な未亡人)』。『こうもり』と並ぶウインナオペレッタの金字塔です。この作品は1905年、アン・デア・ウィーン劇場で初演(この劇場では、『こうもり』『ジプシー男爵』『ルクセンブルク伯爵』も初演されています。)、大ヒットし、その人気は世界中に広がりました。甘美なメロディとワクワク、ドキドキするストーリー展開、すぐれた人間の心理表現は何度見ても心を打たれます。テーマソングの「メリー・ウイドゥワルツ(唇は語らずとも)」やフレンチカンカンなど楽しい踊りも満載。必見です。映像は、オーストリアのメルビッシュ音楽祭の野外上演を撮影したもの。湖畔の広大な野外ステージを用いた豪華な舞台も楽しめます。

余談ですが、アドルフ・ヒトラーがこの作品を好んだため、レハールは妻がユダヤ人であったにもかかわらず、ヒトラーの厚い庇護を受けたとのこと。レハールもヒトラーにこの曲のスコアを送ったとのエピソードが残っています。しかしながら、このため、戦後はナチスの協力者として非難を浴びることになるのですね。

 

 

『メリー・ウイドゥ』フィナーレ

(Franz Lehár : Finale de La Veuve joyeuse, 2003 aux Matelots de la Dendre Photo perso)

 

 他に上映するレハールの作品は『微笑みの国』『ルクセンブルク伯爵』『ジュディッタ』『ロシアの皇太子』『ジプシーの恋』『パガニーニ』の6作品で、すべて名作ぞろいです。レハールの音楽は、少し憂いを帯びた甘く夢見るようなメロディーが特徴で、胸がしめつけられるような魅力を感じます。テーマはすべて「男女の愛」とその駆け引き。熟年の愛、若者の愛、不倫の愛、貴族と踊り子の愛、片思いなど様々な「愛」が歌われ、語られ、踊られます。まさに「愛の百科事典」「愛の展覧会」ですね。夫婦や恋人と一緒に見ると、愛がより深まるのではないでしょうか。見終わった後には、聞いたメロディーが体にしみこんで、自然と口から出てくるような幸福感を味わうことができます。

 

 これらの作品で、『メリー・ウイドゥ』に次ぐ傑作と言われているが、『微笑みの国』です。中国の王子とウイーンの令嬢との恋物語。最初から最後まで、甘美なメロディーに溢れています。オペラが好きな方にはたまらないでしょう。

 ストーリーを楽しみたい方はコミカルな『ルクセンブルク伯爵』がお勧めです。楽しいストーリー展開と明るい音楽で、見終わった後にはさわやかな感動が残ります。筆者が大好きな作品です。

 ヴァイオリンの好きな方には実在の超絶技巧ヴァイオリニストで作曲家のニコロ・パガニーニを題材とした『パガニーニ』がお勧め。演奏されるヴァイオリン音楽も魅力的です。

 映画好きな方には『ジュディッタ』。美しい地中海の風景の中で歌われる愛と別離はとても感動的です。この作品はレハール最後の作品で、悲劇です。

 このほか、『ロシアの皇太子』『ジプシーの恋』も美しいメロディーと現地の美しい風景が楽しめます。

 

 

 

ポストカード(『ルクセンブルク伯爵』第2幕より)

(Postcard illustrating the song "Mädel klein, Mädel fein" from the operetta Der Graf von Luxemburg circa 1910)

 

次回は、白銀の時代のもう一人の作曲家カールマンをご紹介します。

 

♪一口メモ♪

ウインナワルツと通常のワルツはどこが違うの?

通常のワルツは3拍子。「ズンチャッチャ」と3つの拍は均一です。一方、ウィンナワルツの場合は、少し崩れた形となり、2拍目をすこし早めにとるため、1拍目と2拍目がすこし詰まり、2拍目と3拍目が少し間延びする「ズチャッチャー」となります。これが、ウイーン独特の「訛り」であり、甘美なメロディーを生み出すのです。

(A.M)

新年あけましておめでとうございます!  ウィーンでは、Frohes  Neues  Jahr ! と言います。 

ニューイヤーというと音楽好きな方なら、元日のウィーン楽友協会大ホールでの「ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート」を思い浮かべることでしょう。ウィーンの作曲家たちのウインナワルツやポルカなどの華やかで心躍るような音楽は、まさに新春にぴったりですね。今年はご覧になりましたか? 指揮は世界で最も有名な指揮者の一人マリス・ヤンソンスでした。かっこよかったですね。

 

さて、ニューイヤーの気分が残る1月の限定企画として、ウインナ・オペレッタ映画上映会をアートプラザ・ビデオルームで行います(入場無料)。

 

オペラというと、上演時間が長く、内容も難しくて敬遠する人が多いのですが、ウインナ・オペレッタはそんな心配はいりません。上演時間も短く、とにかく楽しい! 美しく甘いメロディ、心躍るリズム、ウインナワルツやチャールダッシュ(ハンガリーの民俗舞踊),フレンチカンカンなどの楽しい踊りにあふれています。しかもなぜか、美男美女が登場するのですね。見ればどんなに疲れていてもたちまちハッピーとなる不思議な魅力にあふれています。

 

今回の上映会の前半はワルツ王と言われる、J.シュトラウス2世の珠玉の代表作 『ヴェネチアの一夜』 『ジプシー男爵』 『こうもり』 『ウィーン気質』の4本です。

 

 

 

ヨハン・シュトラウス2世(1825-1899)

 

 この中で最もウィーンらしい作品が『ウィーン気質(かたぎ)』です。気難しく生きるも人生、笑って生きるも人生、どうせこの世が一度きりなら楽しく陽気に生きれば幸せ! そんな人生謳歌の底抜けに明るい響きが『ウィーン気質』には溢れています。ワルツ『ウィーン気質』をはじめ、『酒・女・歌』『浮気心』『電光石火』『百発百中』など、楽しいJ・シュトラウス・メロディーの宝庫です。また、この映画では、シュテファン大聖堂やベルヴェデーレ宮殿、シェーンブルン宮殿といったウィーン旧跡でのロケーション撮影、ギターとバイオリン、アコーディオンが奏でる哀愁を帯びた酒場音楽(シュランメル)など、ウィーンの魅力がたっぷり味わえます。

 

  主演はドイツが生んだ20世紀最高のテノールでハンサムなルネ・コロ。さらに、インゲボルグ・ハルシュタイン、バレリーナから歌手に転じたプロポーション抜群のダグマール・コラー、エネルギッシュに踊りまくるヘルガ・パポウシェクなど、女性たちが皆美人なのも、映画ならではのお楽しみです。

 

 

 

ワルツ「ウィーン気質」の楽譜表紙(1873年)

 

次回は、後半のウィンナ・オペレッタ「白銀の時代」を御紹介します。

残念ながら、見逃してしまった方は、アートライブラリーで視聴できますので、気軽に御利用下さい。

(A.M)