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 東海地域は昔から芸能が盛んです。現在でも日本舞踊やバレエなどの習い事が盛んな地域です。また、愛知県内には4つの芸術系の大学があり、多くのアーティストを輩出しています。


 愛知県文化情報センターでは、地元のアーティストを支援し、その活動を紹介するため、様々な情報発信を行うとともに、アートライブラリーにおいて、関連の図書、図録、録音・録画資料などを重点的に収集しています。
 今回の上映会では、アートライブラリー所蔵の映像資料の中から、美術、音楽、映像、舞踊、演劇、オペラなど18本の作品を選びました。ラインアップを紹介しましょう。

 

 まず、美術では、次の5人を取り上げました。
 三岸節子氏(1905-1999)は旧尾西市(現一宮市)生まれで、女性画家の第一人者として、力強い作品を多く生み出しました。生家跡地に「三岸節子記念美術館」があります。
 片岡球子氏(1905-2008)は、ダイナミックな作風の日本画家として著名で、愛知県立芸術大学の日本画の礎を築きました。同大学の講義棟の壁には片岡氏の作品が描かれ、芸術を目指す学生を今でも見守っています。
 杉本健吉氏(1905-2004)は名古屋市生まれ。吉川英治作の『新・平家物語』等の挿絵で絶賛を得ました。また、名古屋能楽堂の鏡板で、定番となっている老松でなく若松を描いたため物議を醸しました。美浜町には「杉本美術館」があります。
 島田章三氏(1933-)は、愛知県立芸術大学学長や芸術文化センター総長を歴任されました。画家の島田鮎子夫人ともに、独自の絵画表現を確立してきました。

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島田章三《課題制作》 1980年

 荒川修作氏(1936-2010)は名古屋市生まれ。前衛的な芸術家として、日本より海外で先に高く評価されました。岐阜県養老町の「養老天命反転地」(1995年)は代表作の一つです。

 

 音楽では、ヴァイオリニストの竹澤恭子氏(1966-)を取り上げました。竹澤氏は大府市生まれ。スズキ・メソッドとして知られる才能教育研究会で学んだ後、ジュリアード音楽院へ留学して研鑽を積み、世界的な評価を勝ち得、現在では、世界中で演奏活動を続けています。

 

 映像では、愛知芸術文化センターオリジナル映像作品の作家2人と名古屋市出身の映像作家を取り上げました。
 前田真二郎氏(1969-)は、映像作家で岐阜県大垣市にある情報科学芸術大学院大学(IAMAS)の准教授です。今回の『王様の子供』では映像表現の新たな局面を切り開いています。
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『王様の子供』の1シーン

 三宅流氏(1974-)は岐阜県出身の映像作家。『究竟の地--岩崎鬼剣舞の一年』は、岩手県北上市の岩崎地域に古くから伝わる民俗芸能「岩崎鬼剣舞」(国指定重要無形民俗文化財)にたずさわる人々を一年間追い続けたドキュメンタリー作品です。
 なお、前の2人の作品は、愛知県文化情報センターのオリジナル映像作品として制作されたものです。
 名古屋市生まれの松本俊夫氏(1932-)が日本の代表的な実験映画の作家として著名で、戦後の映像作家に大きな影響を与えました。
 

 舞踊では、名古屋市出身の2人を取り上げました。日舞の山路曜生氏(1929-2010)は、創作日本舞踊家として地域の日本舞踊の発展に貢献しました。
 コンテンポラリーダンサーの平山素子氏は、振付家としても、日本のダンスシーンをリードする存在として注目を集めています。『After the lunar eclipse/月食のあと』は、愛知県文化情報センターが2009年にプロデュースした作品で、2011年にも再演されています。
jimoto4.jpg 撮影:Yutaka Mori
平山素子 近影

 

演劇では次の4つを取り上げました。
 名古屋は小劇場が盛んな地域でもあります。北村想氏(1952-)は、日本を代表する劇作家・演出家です。名古屋で劇団「プロジェクト・ナビ」を主宰していました(2003年解散)。近年は小説にも取り組んでいます。
 「少年王者舘」は、一宮市出身の天野天街氏(1960-)が主宰する劇団です。天野氏の独特の世界観は大変魅力的で、県内外での人気が高くなっています。また、芸術文化センター1994年オリジナル映像作品の『トワイライト』は、第41回オーバーハウゼン国際短編映画祭('95 ドイツ)および、第44回メルボルン国際映画祭・短編部門('95 オーストラリア)でグランプリを受賞しています。
 「ままごと」は、一宮市出身の劇作家・演出家の柴幸男氏(1982-)の作品を上演する劇団で、あいちトリエンナーレ2013でも公演が予定されています。今回、上映する『わが星』は、柴氏が岸田國士戯曲賞を受賞した作品です。
 愛知県文化振興事業団では、上演戯曲を毎年募集しており、受賞作(AAF戯曲賞)をプロデュース公演として上演しています。今回は、地元のスエヒロケイスケ氏の受賞作「water witch--漂流姉妹都市」の記録映像を上映します。

 

 オペラでは、あいちトリエンナーレ2010で高い評価を得た『ホフマン物語』(オッフェンバック作曲、愛知県文化振興事業団制作)を上映します。この上演には、地元の名フィルやオーディションで選ばれたAC合唱団が加わっています。演出や舞台も大変素晴らしく、外国でも再演されました。
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『ホフマン物語』公演チラシ

 

 これらのビデオ作品はすべて、アートライブラリーで視聴することができます。
 地元のアーティストたちの活動を知り、応援していきましょう。
 アートライブラリーでは、関連企画として「愛知にゆかりのある芸術家たち」と題した資料展を併せてて開催中です。


(H.K)
 

 ドイツの名指揮者ウォルフガング・サヴァリッシュ氏が、2月22日、亡くなられました。
サヴァリッシュ氏は、NHK交響楽団の指揮者として長年日本でも活躍したため、日本には馴染が深く、多くのファンがいます。


 サヴァリッシュ氏と愛知県との関わりは、愛知県芸術劇場の杮落としとして、バイエルン国立歌劇場とともに「影のない女」(R.シュトラウス)を3代目市川猿之助演出により上演し、歴史的な出来事となりました。【1992年11月8日、11日】
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公演のプログラム(展示品)


 サヴァリッシュ氏は、この作品には特別な力を入れていました。彼は20年以上にわたって続けてきたバイエルン国立歌劇場総監督をこの来日公演の後に退くこととなっていました。その最後の公演の一つとして「影のない女」を取り上げ、演出には市川猿之助氏にお願いしたいと強く希望されたのです。また、建設中の愛知県芸術劇場にも2回も足を運ばれ、新しい劇場にも大きな関心を持っておられました。

 
 このときの公演記録がDVDとして発売されています(アートライブラリーで視聴できます)。そのDVDのライナーノートに寄せて、サヴァリッシュ氏はこのように述べています。
 

「1992年秋のことを思い起こすと、筆舌に尽くしがたい美しい記憶が蘇ってきます。あの時、名古屋では、新しく建てられたオペラ・ハウスの落成がR.シュトラウスの傑作《影のない女》によって祝われ、そして、同時にコンサートホールの杮落としも行われたのでした。・・・」

 

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当時の新聞記事スクラップのパネル


 サヴァリッシュ氏にとっては、この時の体験は忘れられないものとなったのでしょう。その後、1996年(フィラデルフィア管弦楽団)と2001年(NHK交響楽団)の2回、愛知県芸術劇場で公演を行っています(愛知県文化振興事業団主催)。1996年の来日公演では、サヴァリッシュが当時の飯島総長に直々に話をし、愛知での公演を実現させたとのことです。この時は、コンサートホールが既に埋まっていたため、オペラの公演が入っている大ホールの利用のない日で実施することとなり、当時の事業団のスタッフは相当の苦労をされたとお聞きしています。


 サヴァリッシュ氏の演奏は、録音で聴くとやや優等生的な感じを受けるのですが、生の演奏は感興豊かでとても素晴らしいものです。音楽そのものの素晴らしさがダイレクトに伝わってきます。マエストロの至芸ですね。ご冥福をお祈りします。

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展示風景

 なお、アートプラザでは、2月26日(火)から28日(木)までの3日間、サヴァリッシュのドキュメンタリーを上映するとともにミニ展示を行っています。また、アートライブラリーでは、録音・録画資料や関連書籍もあります。

(A.M)
 

[ 音楽 ]

 「クリムト展」も終盤に近づいた1月27日(日)の午後、「ウィーン・ガラ・コンサート」が10階愛知県美術館前のフォーラムで開催されました。クリムトがウィーンで活躍したことから「音楽の都ウィーン」をテーマに、ベートーヴェンから映画「第3の男」まで、ウィーンで活躍した作曲家たちの珠玉の名曲を1時間にわたり紹介しました。

 今回は、初めての試みとして、11階の展望回廊への階段の踊り場に電子ピアノを置き、ステージとし、また、電子ピアノにJBLの高級スピーカーをつなげました。
 10階のフォーラムは、天井がそれほど高くないため、ヴァイオリンやオーボエの音色がよく響き、素晴らしい音響効果となりました。庭園がガラス越しに見える素敵な会場は超満員で、立見の方も含め約300人の方に楽しんでいただきました。

 司会は、音楽学者の中村ゆかりさん、演奏は、ピアノの金澤みなつさん、ヴァイオリンの波馬朝加さん、オーボエの柴田祐太さんの3人で、全員、愛知県立芸術大学音楽学部を卒業しています。金澤さんと波馬さんは同大学の大学院博士前期課程を修了し、さらに金澤さんは同後期課程に在学中です。柴田さんは東京芸大大学院の修士課程に在学中で、それぞれ優れた演奏家としても活躍しています。
ウィーンガラ1.jpg司会の中村ゆかりさん


 さて、コンサートは、ベートーヴェン(1770-1827)の「月光ソナタ」が金澤さんのピアノソロで静かに始まりました。会場のざわめきも静まり、美しい音楽の世界に誘われました。続いて、波馬さんの艶やかなヴァイオリンの音色とともにヴァイオリンソナタ「春」が奏でられました。新春にふさわしい清々しい薫りが会場に漂いました。

 シューベルト(1797-1828)の「アヴェ・マリア」は、1回目がオーボエとピアノの二重奏で、2回目はオーボエをイングリッシュホルンに持ち替え、演奏されました。オーボエの演奏はとても大変だそうで、「世界で一番難しい木管楽器」とも言われています。柴田さんの哀愁がこもったオーボエは、心の奥深くに染み入るようでした。

 ブラームス(1833-1897)の作品では、ピアノソロによる「ワルツ第15番」に続き、ピアノ、ヴァイオリン、オーボエによる「ハンガリー舞曲第5番」を演奏しました。ピアノとヴァイオリン、オーボエの編成は大変珍しいものですが、金澤さんの見事な編曲で、3人のアンサンブルは呼吸がぴったり。楽しみながらの演奏で、喜びが伝わってきます。
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左から金澤さん(Pf)、波馬さん(Vn)、柴田さん(Ob)


 クライスラー(1875-1962)はヴァイオリニストとしても有名ですが、ウィーン情緒あふれる小品も多く書いています。「愛の喜び」はオーボエとピアノ(編曲)、「愛の悲しみ」はヴァイオリンとピアノという編成です。愛する者の心の動きをとても繊細に表現していました。

 次のJ.シュトラウス2世(1825-1899)の「アンネン・ポルカ」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」はウィーンのニュー・イヤー・コンサートでもお馴染みです。3人の楽しそうな演奏に、思わず踊りたくなってしまいます。
極め付けは、レハール(1870-1948)のオペレッタ「メリー・ウィドゥ」から「唇は語らずとも」(「メリー・ウィドゥ・ワルツ」としても有名)です。波馬さんの美しいヴァイオリンの音色に導かれ、オーボエを吹きながら階段を下りてくる柴田さんの姿はとても素敵で、二人でワルツを踊りだすかのようにロマンティックな雰囲気でした。オペレッタの舞台では、2人は流れてくるワルツの調べに抗しきれずに踊りだすそうです。

 映画「第3の男」は、ハリー・ライム役のオーソン・ウェルズでも知られていますが、音楽を担当したのはティター奏者のアントン・カラス(1906-1985)です。少しおどけたような音楽が、オーボエとヴァイオリンの2重奏で奏でられました。編曲もとてもおしゃれです。

 アンコールはマーラー(1879-1964)の交響曲第5番から第4楽章の「アダージェット」(ジンガー編)をピアノソロで金澤さんがとても美しく演奏しました。この曲は映画「ベニスに死す」で有名になった、大変、甘美的な音楽です。マーラーとクリムトは親交があり、マーラーの夫人のアルマは、クリムトとも親密な関係にあったと言われています。また、「ベートーヴェン・フリーズ」の黄金の騎士は、マーラーがモデルとも言われています。
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 「アダージェット」を演奏する金澤さん
 

 曲の間には、中村さんが作曲家や曲の解説を演奏者へのインタビューを交えて楽しくお話しいただき、ウィーンとクリムトに思いを寄せながら、華やかなコンサートは終了しました。

ウィーンガラ4.jpg終演後の記念撮影

(A.M)
 

 2013年は、ドイツの音楽家リヒャルト・ワーグナー(1813-1883)の生誕200年の記念年です。ワーグナーは、音楽・劇・文学を結びつけた総合芸術としての「楽劇」を創始し、その後のヨーロッパ文化に多大な影響を与えました。
 今回の上映会では、彼の最高傑作である楽劇「ニーベルングの指輪」(以下「指輪」という。)を2種類の舞台でお届けします。「指輪」は史上最大のオペラで、序夜「ラインの黄金」、第1夜「ワルキューレ」、第2夜「ジークフリート」、第3夜「神々の黄昏」の4作品からなり、上演には4日間も要します。しかも、それぞれが長大で、「神々の黄昏」に至ってはなんと4時間半も掛かり、演ずる側も見る側も大変な労力が必要となります。
 
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リヒャルト・ワーグナー(1871年)
 
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「ワルキューレの騎行」 挿絵
(アーサー・ラッカム1910年)

 

 この大作を上演することは、劇場にとってもビッグイベントで、周到な準備が必要です。「指輪」を毎年上演する劇場が、バイロイト祝祭劇場です。バイロイトは南ドイツの端にある小さな街ですが、ワーグナーはここに自分の作品を上演するための理想的な専用劇場(木造、1974席)を1876年に建てたのです。
 この劇場でバイロイト音楽祭が毎年夏に開催され、世界中からワーグナー・ファンが集まります。チケットを入手するのも大変です。劇場の中は狭く、暑く、観劇するのも相当の忍耐を要します。また、観客を舞台に集中させるためにオーケストラ・ピットを舞台下に設け(「神秘の奈落」と呼ばれる)、独特の響きを醸し出しています。
 なお、熱狂的なワーグナー愛好家を「ワグネリアン」と呼び、この音楽祭に参加することを「バイロイト詣で」と呼んでいます。ヒットラーやニーチェ、ルードヴィヒ2世、ボードレールなどもワグネリアンとして有名です。しかし、ヒットラーが反ユダヤ主義の音楽としてワーグナーを利用したため、ユダヤ人からの反発は根強く、イスラエルでは、現在でも、ワーグナーの音楽はタブーとなっています。
 
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バイロイト祝祭劇場
 
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バイロイト祝祭劇場のグランドデザイン

 

 さて、今回の上演の映像ですが、前半はメトロポリタン歌劇場によるオーソドックスな舞台です。オットー・シェンクによる演出は、ワーグナーが楽譜に書き込んだ「ト書き」になるべく忠実に従った美しく神秘的なもので、神々と人間の確執を壮大な規模で描き上げたこの作品にぴったりの演出です。レヴァイン指揮の雄大で力強く迫力に富んだ演奏も非常に素晴らしく、歌手も最高のワーグナー歌手を揃えています。「指輪」入門に最適です。
 一方、後半のバレンシア州立歌劇場の舞台は、CG映像など最新テクノロジーを駆使した斬新なもので、びっくりです。演出がスペインの演劇集団「ラ・フラ・デルス・バウス」のカルルス・パドリッサ(バルセロナ・オリンピックの開会式の演出で有名)です。ダイイナミックなCG映像、レーザー光線が飛び交う舞台、SF的な衣装や装置で、神々はクレーンに、巨人はロボットに乗り、舞台を自由自在に動き回ります。まるでスターウォーズの世界のようです。ズービン・メータの指揮や歌もレベルの高いものです。この「バレンシア・リング」なら、長大な「指輪」も退屈せずに楽しめるかもしれません。まさに現代に活きるオペラです。

 

 なお、展示資料は、日本ワーグナー協会会員の小竹暢隆氏(名古屋工業大学教授)からお借りしたものです。「DIE WOCHE」は1938年にベルリンで発行された雑誌で、ワーグナー生誕125年の特集です。1938年はナチスがオーストリアを併合した年で、第二次世界大戦直前の緊迫した時代の貴重な資料です。また、1996年のバイロイト音楽祭の豪華パンフレットも展示されています。

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 ワーグナーのオペラは、「指輪」の他にも「タンホイザー」、「ローエングリン」、「トリスタンとイゾルデ」など有名なものが多くあります。アートライブラリーには、これらの映像資料を揃えていますので、どうぞご利用ください。

(A.M)