2年前に開催された「あいちトリエンナーレ2010」で現代美術に触れて、現代の作品には映像を使ったものが多いなあ、と感じられた方も少なくなかったのではないでしょうか。そして、なぜ映像を用いた作品が多いのだろうか、疑問をもたれた方もいらしたことでしょう。
実は映像と美術の出会いは、1910-20年代のアヴァンギャルド映画(前衛映画)の時代にまでさかのぼることが出来ます。アヴァンギャルド映画は、この時代の前衛芸術運動であるダダやシュルレアリスムの理論を、当時のニュー・メディアである映画において実践したもの、という側面があります。このヨーロッパで発生した映像アートの最初の動きは、第二次世界大戦をへてその中心地をアメリカへと移します。1950-60年代に、この国を起点に世界的に波及していったのがアンダーグラウンド映画(地下映画)のムーブメントです。アヴァンギャルド映画からアンダーグラウンド映画へと連なる流れで生み出された、商業的な劇映画において固定化した方法論によらず、映像メディアの新しい可能性を追求するアプローチは、実験映画と総称されるようになります。
さらに1970-80年代には、フィルムにくらべ扱いが容易なビデオが普及し始め、アーティストによる映像制作がより容易となり、ビデオ・アートと呼ばれる映像表現の新しい試みが盛んになります。ビデオ・アートとは、フィルムとは異なるビデオの表現メディアとしての可能性を追求する試みですが、実験映画の方法論やボキャブラリーを継承しているという指摘もあり、実験映画の流れを汲むものといえるでしょう。
今回開催する「ビデオ・アートから映像アートへ」は、愛知県文化情報センターが所蔵するビデオ・アート作品より、このジャンルのパイオニアであるナム・ジュン・パイク、第二世代を代表する作家のビル・ヴィオラ、フィルムからビデオまで様々なメディアとジャンルを横断する独自の活動を行った映像作家・松本俊夫の作品をセレクトして、1970-90年代に到る流れを抽出し、ビデオ・アートがその表現としての精度を高め、深みを増すことによって、映像アートというべき今日の映像を用いた美術表現を用意していったことを照らし出します。
【左:ビル・ヴィオラ『歯のすき間の空間』(1976年、『四つの歌』より)
右:ナム・ジュン・パイク『グローバル・グルーブ』(1973年、共作:ジョン・J・ゴットフリー)】
会期中には、今後の活躍が期待される若手作家をフォーカスした、愛知特別プログラム「愛知の新世代たち」や、昨年開催された「第5回あいちデジタルコンテンツコンテスト」一次審査通過作品の上映も行います。映画館で観る劇映画とは異なる、映像による自由で新しい表現にぜひ触れてみてください。皆様のお越しをお待ちしております。
会期は、6月8日(金)-10日(日)、19日(火)-21日(木)の6日間です。6月13日(水)-17日(日)は、国内最大級の映像アートの祭典「イメージフォーラム・フェスティバル2012」を開催しますので、ぜひこちらにも足をお運びください。
会場は、愛知芸術文化センター12階アートスペースAです。
(T.E)