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第5回AACサウンドパフォーマンス道場本公演

2011年10月21日
[ 音楽 ]

10月2日(日)、第5回AACサウンドパフォーマンス道場本公演を行いました。

「AACサウンドパフォーマンス道場」は、若手アーティスト育成支援事業として、「音」を核に据えた新しいパフォーマンス作品の企画案を若手アーティストたちから公募し、書類選考、優秀な作品企画に、ブラッシュアップと劇場で上演する機会を与えるプロジェクトです。10月2日は、その成果を発表する劇場上演の日。4つの入選作品が上演されました。

1. 井藤雄一 『fmiSeq』 

コンピュータの映像そのものに伴って出される音を、映像を変化させることで操作し奏でていく作品。それによってコンピュータを一種の楽器として捉えるというのがコンセプトです。
最初に、そうした作品の意図を、その場で井藤さん自身が文字を入力し、説明していきます。文字の映像が変わるのに伴って出される音が変化し、映像そのものが音を発していることが観客にも伝わります。そうしたプロローグのあと、一気に、様々な画面の操作と音の演奏に向かいました。音はすべていわゆるノイズ音で、特に映像が変わる時に大きく発音します。大音響と点滅する画面は、万人が好むところではないにしろ、構成力とリズム感を持った上演、その迫力は一つの作品の完成を感じさせるものでした。
井藤雄一 『fmiSeq』.jpg


2. ヒッチハイカー 『ヒッチハイク』
俳句と、街中や学校や川辺など様々な場所で録音された様々な環境音。二者を出合わせることで観客の心のなかに豊かな風景を描き出す・・・。入選として選ばれた際の企画からは紆余曲折を経て、ばっさりと潔くシンプルに仕上げてきた作品でした。
パフォーマンスは2部構成で、前半は音を聴いて正岡子規、夏目漱石の句集の中から選句し朗読。後半は、音を頼りに即興で俳句を作り朗読しました。空間も、着流しに高下駄を履いた出演者と、パソコンを操作し環境音を出す出演者の対照。俳句という最も短い詩とそれを詠み上げる声、そして実際に耳に届く環境音。俳句がこのサウンドパフォーマンスに登場したのは初めてで、これまでのどの作品とも異なる表現となりました。
ヒッチハイカー 『ヒッチハイク』.jpg


3. 堀江俊行 『ずれ木魚』
木魚を淡々と一定のスピードで叩き続けるパフォーマー。そこにさまざまにずれた音を絡ませていくことで、聞き手の音楽を聴いているという状態自体にアプローチするというのがコンセプトです。
シンプル極まりないパフォーマンスであるからこそ、どのようにずらしていくのかが、プレゼンテーションでも議論となっていました。ずれ方によっては、ミニマルミュージックのように聞こえるが、それは作者の意図するところなのか。もっと多様にずらしていく方がよいのか、あるいはずれに動じず延々と叩き続ける姿を見せるのか。
結果として、公演では、木魚を叩き続けるところから始まり、途中多様なずれを聞かせて、終わりに向けての緩やかな流れが感じられました。
堀江俊行 『ずれ木魚』.jpg


4. 垣尾優×高村聡子 『一撃1200』
動きと声と音。それらを合わせ、耳を澄まして音を聴かせることを意図した、20分の演劇的な作品。音を聴かせるに焦点を当てるという当初の目的は、プレゼンテーションを経るごとにひらめきをもって付け加わる様々な要素に紛れてしまった感がありましたが、金だらいとコインを小道具として使い、女性の高村さんと、男性の垣尾さんそれぞれが語る声や動作に伴う音が合わさり、身体訓練を極めパフォーマーとしては群を抜いた二人が織りなす、ストーリーがあるような無いようなパフォーマンスは、所々で笑いも生じる楽しいものでした。
垣尾優×高村聡子 『一撃1200』.jpg


上演の後は、15分休憩中に、観客よりオーディエンス賞の投票が行われました。
そして、公開講評&審査会。今回顔ぶれを変えた新しい選考委員によって、まずは一組ずつ、丁寧に講評が述べられました。こうした斬新な作品は、作品の意図、上演の技術力、音(音楽)・映像・ダンス(身体行為)などの構成要素、全体の演出など、多方面の要素から質や完成度が問われるものであり、すべてに高レベルに達するのは大変難かしいことです。今回上演された入選4作品についても、若いアーティストの意欲はありそれぞれよくできた点もあるが、まだまだ課題は多いというのが全体の意見でした。

選考委員の方々.jpgその後、優秀賞を決める審査となりました。どこに評価軸を置くのか、その結果どのように選ぶのかを舞台上で考えを述べ、悩みながら、予定時間を2時間近くも超過して、ようやく優秀賞を決定しました。選考委員が悩みながらも真剣に選ぶ様子を見せたことがまた、新しい作品の創造やアーティストの育成につながっていくことを期待したいと思います。


そして、今回も、優秀賞とオーディエンス賞が決定。受賞されました方、おめでとうございます!毎回、選考委員が選ぶ優秀賞と、観客が選ぶオーディエンス賞が一致しないのは面白いところです。

 優  秀  賞 : 堀江俊行 『ずれ木魚』
 オーディエンス賞: 垣尾優×高村聡子 『一撃1200』

彼らに続く若いアーティストの作品を、来年も期待しています!
 (A.F)