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「チェロの神様パブロ・カザルスとチェロ映像上映会」が始まっています

2011年01月20日

 近年、チェロへの関心が高まっていますね。アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画「おくりびと」の影響もあるかもしれません。愛知県文化振興事業団のコンサートシリーズも今年度はチェロがテーマです。
 今回の上映会では、「チェロの神様」とも呼ばれるパブロ・カザルスとカザルスがその真価を再発見したJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲」を取り上げました。

カザルスはどんな人?
1. チェロの神様・カザルス
 パブロ・カザルス(1876-1973)は、スペイン・カタルーニャの生んだ偉大なチェリスト・音楽家です。チェロの奏法を熱心に研究し、奏法を確立することによってチェロの持つ表現力を高めました。また、当時単なる練習曲と捉えられていたバッハの『無伴奏チェロ組曲』(チェロの聖書とも呼ばれることも)を立派な芸術作品として世に広めました。カザルスはバッハを心底から敬愛していました。毎日の朝の日課でバッハのプレリュードとフーガを2曲ずつ弾くことを80年以上続けてきたと本人は言っています。
カザルスの演奏は録音で多く残っています。アートライブラリーにもありますので、ぜひお聞きください。とても力強い演奏です。
 カザルス1.jpg

 

2. 音楽家・教育者・カザルス
 カザルスは、チェリストだけではありません。指揮者として、作曲者としてまた教育者としても活躍しました。プラド(フランス)やプエルトリコでは音楽祭やコンクールを主宰し、多くの音楽家がカザルスを慕って集まりました。カザルスの薫陶を受けた音楽家は世界中に広がっています。日本にも1回だけ1961年に来日しましたがチェロは演奏せず、指揮と公開レッスンを行いました。
 カザルス2.jpg


3. ヒューマニスト・カザルス
 カザルスは1936年のスペイン内戦でファシズムに反対し、スペインを去り、フランスの寒村プラドに移住しました。終戦後も、各国政府がフランコ政権を容認する姿勢に失望し、公開演奏停止を宣言します。その後、プラド音楽祭などで演奏はしましたが、フランコ政権を容認する国で決して演奏しませんでした。
一方、積極的な平和運動を行います。シュバイツァー博士とともに米ソ両国に対し核兵器禁止を訴えたり、国連では何度も演奏し、世界に平和を強く訴えました。1971年10月24日、カザルス94歳のときにニューヨーク国連本部において「私の生まれ故郷カタロニアの鳥は、ピース、ピース(英語の平和)と鳴くのです」と語り、『鳥の歌』をチェロ演奏したエピソードは伝説的で、録音も残されています。 

カザルスは、音楽家としても人間としても信念を貫き通した高潔な人と言えるでしょう。
彼の生涯と演奏やレッスン風景を4本のドキュメンタリー映像でお楽しみください。

 

3人の名チェリストと無伴奏チェロ組曲
 ロストロポーヴィッチ、ヨーヨー・マ、マイスキーの3人の名チェリストによるバッハ『無伴奏チェロ組曲全6曲』の映像もあわせて上映します。
 ロストロポーヴィチはロシアのチェリスト・指揮者でした。人間と芸術の自由を擁護し、作家ソルジェニーツィンをかくまったため、ソ連を追放されました。人道主義的な行動はカザルスに似ていますね。日本にも何度も来日しています。2007年に亡くなりました。この映像では、彼がピアノを弾きながらわかりやすく曲の解説もしています。カザルスと出会ったエピソードも語られています。
 
カザルス4.jpg ロストロポーヴィチ(1927-2007)

 

 マイスキー(1948?)は、ラトビア生まれのユダヤ系チェリストです。ソビエト当局の監視下に置かれ、18か月も強制収容所に収容させられたという経歴もあります。彼はチェロを手にした吟遊詩人によく例えられます。とってもロマンティックで情熱的な演奏ですね。
 
カザルス5.jpg マイスキー(1948- )

 

 ヨーヨー・マは日本でも人気が高いですね。中国系アメリカ人です。彼は、様々な分野で活躍するアーティストとのコラボレーションに挑み、バッハの音を映像化しています。今回の映像は、映画監督アトム・エゴイアン、歌舞伎役者 坂東玉三郎、アイスダンスのトーヴィル&ディーン、振付師マーク・モリスなどとのコラボレーションを通じて、『無伴奏チェロ組曲』の新たな側面を発見することができるでしょう。
 
 ヨーヨー・マ(1955-)

 

自筆楽譜(ファクシミリ)等も展示
 今回の展示は、チェリストの天野武子氏所蔵のカザルスのポスター、カザルス博物館の冊子、バッハ『無伴奏チェロ組曲』の自筆譜(ファクシミリ)と愛知県立芸術大学所蔵のベートーヴェン『チェロソナタ第3番』の自筆譜(ファクシミリ)です。
 特に『無伴奏チェロ組曲』は、バッハの自筆譜が見つからず、2番目の妻のアンナ・マグダレーナの筆写譜が残されていますが、間違いや謎が多く、多くの版が出されています。5種類の版を展示しましたので比較するのも面白いでしょう。 

カザルス7.jpg 
バッハの妻アンナ・マクダレーナによる
無伴奏チェロ組曲第1番ト長調 BWV1007の写譜
前奏曲(Praeludium)
 

 今回の上映作品はアートライブラリーでも視聴できます。どうぞご利用ください。

(A.M)