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大山慶監督『HAND SOAP』受賞記念「オリジナル映像作品」アニメーション特集を開催!

2011年02月04日
[ 映像 ]

 昨年、愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品として制作された、大山慶監督『HAND SOAP』(2008年、シリーズ第17弾)が、世界各地の映画祭で上映され、「第14回オランダ・アニメーション映画祭」短編部門でグランプリを受賞するなど、国際的にも高い評価を得たことは、皆様の記憶にも新しいことだと思います。当センター地下2階のアートプラザ内ビデオルームでは、『HAND SOAP』の受賞を受けて、このシリーズで制作されたアニメーション作品3本を特集した、「愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品受賞記念上映会 ‐アニメーション特集‐」を2月8日(火)‐12日(土)に開催する運びとなりました。

 開館以来、毎年一本のペースで作品制作を行っているオリジナル映像作品で、初めてのアニメーション作品となったのは、シリーズ第10弾となる石田尚志監督『フーガの技法』(2001年)でした。この作品はタイトルからも分かるように、バロック音楽を代表する作曲家J.S.バッハの『フーガの技法』より、「1番」「11番」「未完のフーガ」の3曲を映像化したものです。音楽をアニメーションとして映像化する試みは、ハンス・リヒターが監督した『リズム21』(1921年)や、ディズニーの長編『ファンタジア』(1940年)など、多くの作例がありますが、石田のこの作品は、通常のアニメーション制作では必須とされる絵コンテを起こさず、楽譜を読み解き直接、作画作業を行っています。そのためバッハ『フーガの技法』をアニメーションで演奏する、といった試みになっていることにも特色があります。

 本シリーズ2本目のアニメーションは、『フーガの技法』から5年後に制作された、辻直之監督『影の子供』(2006年、シリーズ第15弾)です。『フーガの技法』同様、作者自身の手描きによるドローイング・アニメーション作品である点は共通しますが、作品の趣は大きく異なります。辻のアニメ盾.jpgーションは、
画用木炭を用いて一枚の紙にまず起点となる絵を描き、それを消して次に続く絵を描いては、また消し・・・、という作業を繰り返すことで動きを作り出しています。画面には、アニメーションの運動の軌跡が反映されるとともに、存在と不在が併存するような、そこはかとない寂寥感が漂っていることも、辻直之作品の独特の魅力になっているといえるでしょう。

 大山慶監督『HAND SOAP』は、この2本に続くシリーズ3本目のアニメーション作品となるものです。現在、個人制作によるアニメーションは、デジタル・ビデオカメラやコンピューターが普及し、フィルム時代にくらべ制作が容易となり、多くの作り手が登場し作品が発表されて、活況ともいえる状況が生み出されています。しかし多くの作品が、コンピューターを導入していても、制作プロセスの簡略化や合理化に留まっていたのに対し、大山作品では人間の皮膚を接写した画像を取り込み、それを細かく分解しコラージュ的に再構成することで、登場するキャラクターの肌の質感を作り出すといった、より踏み込んだ創造的なアプローチを試みている点に特色があります。新しい技術を用いて、過去にはなかった表現に踏み込んでゆくという意味での現代性が、『HAND SOAP』の国際的な舞台での評価につながっている様に思われます。

 アニメーションという共通の手法を持ちながら、三者三様、それぞれが作り出した独自の表現世界を、この機会にぜひお楽しみください。会場ではオランダでグランプリを受賞した際に授与された記念の表彰楯(写真参照)など、貴重な資料の展示も行います。既に『HAND SOAP』をご覧になっていらっしゃる方にも、作品への興味がより深まるでしょう。

(T.E)