2011年02月12345678910111213141516171819202122232425262728

チェリスト天野武子トーク&ミニコンサートが開催されました

2011年02月02日

「パブロ・カザルスとチェロ映像上映会」関連事業として、1月23日(日)天野武子先生によるトークとミニコンサートが開催されました。抽選で選ばれた約40名の方々が熱心に耳を傾けました。

天野先生は、愛知県立芸術大学教授で後進者の育成に携わるとともに、チェリストとしても大変精力的な活動をされています。今年の3月でご退官とのことで、大変ご多忙な中ですが、ご無理を言って来ていただきました。
 天野1.jpg

 

さて、トークは『鳥の歌』から始まりました。天野先生は1971年の国連平和デーでのカザルスの演奏をテレビで見て、人生が変わるほどのショックを受けたとのことです。カザルス94歳(なくなる2年前)のときの演奏で、その時の言葉を紹介しました。カザルスは「私はもう14年もチェロの公開演奏をしていませんが、今日は弾きたくなりました」と運ばれてきた愛用のチェロを手にとって、「これから短いカタルーニャの民謡《鳥の歌》を弾きます。私の故郷のカタルーニャでは、鳥たちはピース、ピース、ピース!と鳴きながら飛んでいるのです」と右手を高く上げて、鳥が飛ぶように動かしながら、ピース、ピース!とくり返しました。「この曲はバッハやべートーヴェンや、すべての偉大な音楽家が愛したであろう音楽です。この曲は、私の故郷カタルーニヤの魂なのです」。
天野先生は、これまでずっとこの『鳥の歌』を演奏できませんでしたが、1992年のバルセロナ・オリンピックの閉会式で歌手(ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘルス)がこの歌を歌うのを聞き、カトリックのイエス様の誕生を祝うクリスマスソングであったことが分かり、その後、演奏するようになったということです。
天野2.jpgFerdinand Schmutzer 1914
 
 

この後、天野先生からカザルスの生涯をじっくりと語っていただきました。カザルスの生い立ちから、晩年(81歳)に若い美人の奥様(21歳)と結婚し、亡くなるまで、数多くの画像を紹介しました。また、カザルスの故郷へ旅行した時の写真も交え、大変熱のこもったお話が聞けました。天野先生が心底カザルスを敬愛していることが伝わってきました。
 天野3.jpg

 

トークの後は2曲演奏しました。バッハの『無伴奏チェロ組曲第1番全曲』と『鳥の歌』です。バッハの曲は13歳だったカザルスが、バルセロナの楽譜屋で楽譜を偶然手にして、当時練習曲と思われていたこの曲の真価を察したのですね。その後10年にわたって研鑽を積み、満を持して開かれた演奏会は世界に衝撃をもたらしたとのこと。カザルスの発見した楽譜はカザルス博物館にも残っており、天野先生も現地で確認されたのですが、オリジナルに近いものではなかったとのことです。最近では研究も進み、またオリジナル楽器(古楽器)の影響もあり、響きもやや軽めな演奏が増えています。天野先生の演奏も最近の研究成果も踏まえ、バッハの自由で孤高な精神を表現しているように感じられました。
最後の『鳥の歌』はカザルスのエピソードと重ね合わせて聞くと、キリストの誕生と平和への想いが伝わり、とても心が動かされました。
 天野4.jpg

 

チェロは人間の声に最も近いと言われます。音域が似ているのですね。ヴァイオリンのやや高めの音と違い、温かみのあるゆったりとしたチェロの素晴らしい音を堪能することができました。40人という大変小さな空間での眼前での演奏で、とても贅沢なひと時でした。また、カザルスを通して、芸術と社会との関わりや平和についていろいろ考えさせられる一日でした。

(A.M)