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アルディッティ弦楽四重奏団と作曲家・西村朗の共演

2008年11月06日

12月3日にコンサートホールで開催される「アルディッティ弦楽四重奏団×白井剛」公演の大きな見所ひとつは、ケージの音楽によるダンスと音楽のコラボレーションですが、話題はコラボレーションだけではありません。
アルディッティ弦楽四重奏団(SQ)は、現代音楽を演奏したら右に出るものはいないというほど、高度な演奏テクニックをもった世界的なカルテットです。しかも愛知初公演となります。

コンサートの第1部では、イギリスの現代音楽家・J.クラークによる「弦楽四重奏曲(2002–03)」と、B.ファーニホウによる「ドゥム・トランシセット1–4」が日本で初めて披露されます。
また日本を代表する作曲家の西村朗による「弦楽四重奏曲第4番(ヌルシンハ)」が演奏されます。
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 ↑作曲家 西村朗さん。すてきな笑顔でインタビューに答えてくださいました

実は西村さんとアルディッティSQは、1988年以来の長いお付き合い。西村さん最初の弦楽四重奏曲《ヘテロフォニー》の改訂曲をアルディッティが演奏したのがきっかけです。92年には、初めてアルディッティのために、弦楽四重奏曲2番目となる《光の波》(Pulse of the light)を創作しました。このときにリーダーのアーヴィン・アルディッティは、「とにかくすっごく難しいアンサンブルの曲を書いて欲しい」と、リクエストしたとのこと。そこで腕を振るった西村さん。楽譜をみたアーヴィンは、「こんな難しいのを書きやがって」と言ったとか。でも彼らは奇跡をもいえる素晴らしい演奏を見せてくれたそうです。

西村さんによると、「弦楽はカンタービレ(歌うように、の意)の世界。だからリズム教育を重視していない日本のカルテットには、緻密なアンサンブル曲の演奏は難しく」、特にインドネシアのケチャの影響を受けたリズムが重要な西村さんの音楽は、打楽器的なリズムコントロールができる弦楽奏者にしか演奏ができない、ということでした。西村さんの弦楽曲を演奏できるほぼ唯一のカルテットといえるのでしょう。
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 ↑熱く語る西村さん

97年にはルーアン(仏)の現代音楽祭「ノルマンディの10月」の委嘱により、三番目のカルテット《エイヴィアン(鳥)》(Avian)、そして、2007年に東京オペラシティの「同時代音楽フェスティバル コンポージアム2007」において初演された四番目のカルテット《ヌルシンハ》を生み出しました。中でも今回の《ヌルシンハ》は、アルディッティSQの卓越した表現力をいかすべく書かれたストーリー性のある音楽です。そして今現在、世界中でアルディッティSQしか演奏できない音楽。その演奏が今から気になりますね。

次々に新しい曲に挑戦し、年間に数十曲に亘るレパートリーを生み出しているというアルディッティSQへの作曲家の信頼は厚く、西村さんもそのおひとりです。
アルディッティSQへの西村さんの賛辞は、
「アーティスティックなのに電気的で複雑な倍音コントロールができる」
「作曲家の意図以上に、曲を読み込んで演奏する」
と、絶対的な信頼をおかれています。
アルディッティSQは、現代の音楽界の進歩のためにいまや欠くことのできない存在なのです。
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 ↑アルディッティがチェロを演奏する様子を再現してくれる西村さん
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 ↑アルディッティのヴァイオリンの弾き方を再現


ところで、難曲というと、音楽そのものが難しいかのような心持ちになってきますが、それは、演奏するのが難しく、高度なテクニックと表現力を必要とするということ。聴いている側は、演奏される音楽を聴くと同時に、高度な演奏を行う演奏家のすばやい動きや、演奏家どうしのやりとり、白熱したボディ・トークを愉しんでいただきたいと思います。
「綿密に計算されたアンサンブルは、4人多重構造のシンフォニックに挑むようなもの」、とは西村さん。
4人の演奏がひとつになって初めて完成するアンサンブルのスリリングな迫力を、是非間近で体験してください。


(E.K)