1912年は、有名な指揮者が生誕した当たり年とも言われ、セルジュ・チェリビダッケ、サー・ゲオルグ・ショルティ、ギュンター・ヴァント、イゴール・マルケヴィチ、クルト・ザンデルリンクなど20世紀を代表する巨匠たちが誕生した年です。
その中でも、「20世紀最後の巨匠」と言われ、晩年、絶大な人気を集めたのは、ルーマニアで生まれドイツで活躍したセルジュ・チェリビダッケSergiu Celibidache(1912-1996)です。「チェリ」(愛称)とも呼ばれ、レコーディングを嫌い、「幻の指揮者」と呼ばれたこともあります。
チェリは、終戦直後のベルリン・フィルを再建しました。首席指揮者のヴィルヘルム・フルトヴェングラーが戦犯容疑で演奏禁止となったため、チェリが400回以上の演奏を行ったのです。しかし、フルトヴェングラー没後、ベルリン・フィルが首席指揮者に選んだのは、ヘルベルト・フォン・カラヤンです。チェリの厳しいリハーサルや激しい性格に団員が反発をしたとか、カラヤンの方がレコーディングなどのビジネスが期待できるから、と言われており、その結果、チェリはベルリンを追い出されました(後年、インタビューで、チェリは「カラヤンはコークのごとし」と発言し、話題を呼びました。)。
チェリは、その後、ヨーロッパ各地で活躍し、晩年にはミュンヘン・フィルの音楽総監督及びミュンヘン市の芸術監督として、素晴らしい演奏を繰り広げ、愛知県芸術劇場コンサートホールでもミュンヘン・フィルを指揮し、聴衆に大きな感銘を与えています。
読売ランドにて1978年3月(石原良也氏撮影)
オーチャードホールにて1990年10月(石原良也氏撮影)
さて、今回の上映会では、チェリの多くのライブ映像とドキュメントをお楽しみいただけます。その中では、特に、次の2つの映像がお勧めです。
一つは、映画「チェリビダッケの庭」です。長男のイオアン・チェレビダーキ(チェリビダッケの別発音)監督によるもので、最晩年のチェリの音楽への情熱が伝わってくる映像です。
もう一つは、チェリが37年ぶりにベルリン・フィルに復帰したドキュメント「勝利の帰還」です。チェリは、この世界一プライドが高いオーケストラに向かって、長々と講釈を垂れ、1小節ずつ細かい指示を与えています。すさまじいリハーサル風景で、必見です。
さらに、今回は、石原良也氏からチェリの自筆手紙、写真、プログラム、ベルリンの新聞記事など貴重な資料を多く借用し、アートプラザ内に展示しています。特に、自筆手紙は、チェリの肉筆が間近に見られ、この機会を逃がすともう見られないでしょう。なお、石原氏は、チェリとの親交が深く、映画「チェリビダッケの庭」の日本語字幕の作成や、チェリに関する著作の翻訳、CD解説なども行い、チェリ研究の第一人者として知られています。
BERINER MORGENPOST(1992年4月2日付) チェリビダッケのベルリン復帰の記事
展示風景
チェリビダッケ自筆手紙
チェリのビデオは、アートライブラリーに多く所蔵していますので、上映会終了後にビデオブースでぜひご覧ください。
(A.M)