音楽評論家の吉田秀和さんが去る5月22日に98歳で亡くなられました。現在、アートライブラリーでは、吉田さんの業績を偲び、著作・関連資料を展示しています。
吉田さんは、朝日新聞の「音楽展望」やレコード芸術などにクラシック音楽を中心に評論されました。また、NHK-FMでも「名曲の楽しみ」での解説で親しまれてきました。音楽評論というと堅苦しい、難解なイメージがありますが、吉田さんの文章はわかりやすく、本人の感じたことがダイレクトに伝わってくるような美しい名文でした。吉田さんの豊かな言葉によって音楽が好きになった、また、音楽の聴き方が変わったという方も多くいることでしょう(筆者もその一人です)。
吉田さんの音楽を聴く耳と感性は素晴らしく、その評論は多くの人から支持されました。グレン・グールドの素晴らしさを真っ先に伝えたのは吉田さんです。また、世紀の名ピアニストのホロビッツの初来日を聴いて「ひびのはいった骨董品」と率直に評し、話題を呼びました。また、若い優れた演奏家を多く世に紹介してきました。小沢征爾さんや中村紘子さんも吉田さんを大恩人としています(小沢征爾さんの追悼文も掲示しています。)
吉田さんが初めて芸文センターに来られたのは、平成5年10月20日のことです。愛知県芸術劇場大ホールでのウィーン・フォルクスオーパーによるオペレッタ「マリッツァ伯爵夫人」(カールマン作曲)を観劇するためです。この時、吉田さんとご夫人のバルバラさんをご案内したのが、当時の愛知県文化振興事業団課長補佐の田中民雄さんでした。田中さんはお二人をアートライブラリーにご案内した後、観劇しました。観劇後も食事をご一緒にされたということです。今回、その時の思い出をエッセイとして特別に寄稿していただき、会場に掲示しています。
貴重な証言ですので、是非ご覧ください。
また、吉田さんもその時の公演を新聞で評論し、会場についても言及しています。以下引用です。
「会場は愛知県芸術劇場大ホール。評判にたがわぬりっぱなもので、天井は高く、広々とした椅子、深い緋色のカーテン等々申し分ない。こんな豪華な会場に座って、オペレッタをきくのは初めてである。」(平成5年10月28日)
実は筆者も当日、大ホールでこの演目を観劇し、オペレッタの魅力にはまってしまったことを懐かしく思い出します。
展示資料は、吉田さん執筆の書籍や執筆記事掲載の雑誌をはじめ、批評したレコード・CD、館長を務めた水戸芸術館の資料や、吉田秀和賞(優れた芸術評論に贈られる賞)を受賞した評論家の書籍、吉田さんの訃報の新聞記事など多岐に渡っています。
また、1980年代からの『音楽展望』の新聞切り抜きを展示しています。これは、当センターの職員(音楽愛好家)が個人的にスクラップしてきたもので、大変貴重なものと言えましょう。
資料展は、7月29日(日)まで開催予定です。是非お立ち寄りください。
(A.M)