「光の切り絵~雫の旅~」

地域文化の新ランドマーク
メニコン シアターAoi

「アート・文化施設やモノづくりの現場にでかけてレポートする「おでかけAAC」。
今号は、2023年7月にグランドオープンした「メニコン シアターAoi」へ。
多様な人々のつながりが生まれる、ユニークな取り組みに注目を。

メニコン シアターAoi
愛知県名古屋市中区葵3-21-19
https://meniconart.or.jp/aoi/
※詳細はシアターのウェブサイトからご確認ください。

施設紹介

地下鉄東山線・千種駅より徒歩で約4分、文化の創造・発信を行う拠点。舞台の創造・製作に関わる人材の機会創出や、地域に暮らすあらゆる人々が、さまざまな他者の表現に出会い、自らも表現を行える場を目指す。
運営管理:公益財団法人メニコン芸術文化記念財団

暮らしの延長で足を運んで、誰もが気軽に鑑賞体験

名古屋のメインストリートの一つ、広小路通沿いに位置する、「メニコン シアターAoiビル」。愛知が世界に誇るコンタクトレンズ総合メーカー「メニコン」が、「スマートクリエーション」と地域・文化発展に貢献する複合施設として、本社の隣接地にオープンした。オフィススペース、カフェ、総合芸術劇場が集まる建物の中に入ると、明るく開放的なシアターロビーが広がる。毎週火曜18時から、愛知県生まれの作家・酒井敦美さんの「光の切り絵~雫の旅~」を約5分間上映(予約不要・鑑賞無料)。毎月末火曜はピアノなどのミニコンサート付きで、地元住民を中心に、仕事を終えた社員もやってきて憩いの時間を過ごす。館長の島英之さんは「さまざまな芸術文化に触れる機会をつくり、社内の文化を醸成、地域文化振興の一助となれたら」と、その様子を温かく見守る。
※「シアターAoi」の催しがない日のみ(休館日を除く)


明るいロビーは「光の切り絵~雫の旅~」の上演が始まると、幻想的な世界に一変。

ミニコンサートは、HITOMIホールアーティストや地元の音楽家の皆さんが出演して、音楽をお届け!



隣接する棟には、2012年6月にオープンした「HITOMIホール」と「ギャラリーMenio」も併設している。

客席数301の小さな劇場で、上演の可能性を広げていく

メニコン創業者・名誉会長の田中恭一さんの半生をモチーフにした歌劇『あしたの瞳』のこけら落とし公演を皮切りに、演劇をはじめ、音楽、ダンス、人形劇、トークイベントまで行われる舞台は実に多彩。「ミュージカルのためにオーケストラピットを備えて、「HITOMI ホール」同様に音楽も聴いていただきたくて」と、島館長は語る。「施設としてはYAMAHA最新のピアノや残響システムの導入もしました。また、初代芸術監督の山口茜が手掛けた作品『透き間』では、演劇の中に映像が組み込まれて、ダンスも入ることで広さが足りなくなり、舞台を張り出しました。その分迫力のある舞台で、お客さまからは「“なんかすごい!”“楽しい”“面白い”というご感想も。自分たちが表現したいことをどのようにしたら実現できるのか、を考えて創造する実験的な作品に驚かされました」

センターブロックG〜L列目の客席は、座席幅が55cmと一般的なサイズより広く、ゆったりとした座り心地。

緞帳幕の絵も、光の切り絵作家の酒井敦美さんが手掛けた。五感をテーマに描かれているのが印象的。

重なり合わせた反響板から間接照明の光がもれる優しい雰囲気。

大小5部屋の楽屋があり、貸しホールの利用もできる。

一人ひとりに寄り添ったコミュニティの架け橋へ

初年度はバリエーション豊かなラインナップで、舞台芸術ファンにもアピールしつつ、子どもから大人までが興味関心を持つきっかけの場づくりをスタート。2024年度について島館長は、「実際に上演したことで、山口監督がお客さまの動線も含めていろいろ見て感じたことを活かし、共有したい・伝えたいメッセージにフォーカスしていきます」と、意気込みを語った。「終演後、ここで顔見知りになった人同士が、1階のカフェや周辺の喫茶店で感想を話し合う、といった流れができてくると、地域の文化を耕す活動につながるのかなとも思っています。今後は近くの車道商店街や地域の方たちとの関係性の構築や、より多くのお子さまに来ていただけるような事業もやっていきたいです。『光の切り絵』のミニコンサートに地元の学生さんに出演していただけないかと検討中」と、館長の言葉に期待が高まる。

過去には視覚障がい者情報提供施設とともに戯曲に触れるワークショップを開催。HITOMIホールアーティスト育成やメニコン社員の企画にも力を入れており、表現の輪が広がる。


正面壁面に太陽光パネルを設置したり、すべての舞台照明にLED機器を採用したり、新施設の配慮があちこちに。本日の発電状況をリアルタイムで確認できるサイネージがあって抜かりない。


心と体に良い空間と時間を提供する「みるオンカフェ」は、鑑賞前の待ち合わせにも便利。

MESSAGE

「シアターAoi」は「私が主役と思える場所」を目指しています。舞台に立つことはもちろん、観劇・鑑賞される方、企画に参加する方、そして劇場で働く方々が、自分のために劇場に訪れ、観劇・鑑賞や参加、仕事を通して自らの人生を豊かにしていただけるような場所を作ることが目標です。そして一人ひとりの自分へのケアが満ち足りたときに、そこから溢れ出たものを、最終的には劇場に全く縁のない方々へ届けられると良いなと思っています。2024年度はそのプロセスとして、人間の浅ましさや滑稽さ、そして愛おしさを描くことに定評のある芸術家をお招きしております。舞台芸術を通して、改めて自分とはどのような人間なのか、本当は何を欲しているのか、笑ったり泣いたり考えたりしながら、じっくりと顧みる機会を提供します。ぜひ皆さま、お誘い合わせの上、「メニコン シアターAoi」に足をお運びください。

初代芸術監督 山口茜さん

劇作家、演出家。2003年OMS戯曲賞大賞、07年若手演出家コンクール最優秀賞、12年文化庁芸術祭新人賞ほか受賞歴多数。07年〜09年文化庁新進芸術家海外留学制度研修員としてフィンランド国立劇場に在籍。19年『悪童日記』がFemArt Festival(コソボ共和国)、瀬戸内国際芸術祭(香川県)に招聘される。龍谷大学非常勤講師。


4月20日(土)・21日(日)
ばぶれるりぐる
『川にはとうぜんはしがある』

11月23日(土・祝)・24日(日)
芸術監督演出作品
子どものための舞台『光と影(仮題)』

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