会場風景(「岡本太郎と愛知」のセクション)

REVIEW 展覧会 岡本太郎

史上最大の爆発だ! こんにちは、こんにちの、岡本太郎

会場風景(「岡本太郎の言葉」のセクション)

「最大規模のスケール」を謳う岡本太郎の大回顧展が、大阪・東京を経て愛知県美術館に巡回している。お茶の間で太郎を見た世代には懐かしく、今の若い世代には突飛なキャラクターが斬新に映るかもしれない。あるいは「もう何度も太郎は見たよ」という美術ファンにも、今回は特別な見どころが用意されている。多くの人が楽しめることは間違いないだろう。

本展の序章「岡本太郎と愛知」は、他会場にはない愛知会場ならではの内容になっている。実は、太郎と愛知県のゆかりは深い。犬山・日本モンキーパークに設置された《若い太陽の塔》(1969年)や常滑・伊奈製陶(後のINAX、現LIXIL)での滞在制作から生まれたモザイクタイル壁画や陶彫、名古屋・久国寺の梵鐘《歓喜》(1965年)など、太郎の代表的な仕事の数々は愛知との関わりから生まれている。続く本展の第1章では、本邦初公開となる太郎の初期作が展示される。そのうち1930年代初頭に制作された3点は、太郎のパリ時代の作品と推定されるもので、今回初めて日本でお披露目された。さらにニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館所蔵《露店》も40年ぶりの帰国を果たし、国内に現存する作品とともに太郎芸術の黎明期をかつてないかたちで眺めることができる。第2章以降は、太郎の一貫した作風と多彩な仕事を余すことなく展観。絵画や彫刻のみならず写真や映像、日用雑貨までが所狭しと並ぶ。そして壁に掲出された太郎の言葉――。1954年の『今日の芸術』以降、およそ70年にわたって人々を啓発し続けているその言葉にはやはり凄みがある。「ぶつかり合うことこそ調和」。会場で放映されていた記録映像の中で太郎はそう言っていた。対立が分断を呼ぶ時代にあって、対立即調和の意味は直ちには解せない。「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに掲げた55年ぶり2度目の大阪万博は、2年後に迫っている。馴れ合いではなく対立を、棲み分けではなくぶつかり合いを。多様性とサステナビリティを目指す社会にこの上ない嫌味をかましてくれるではないか。この「いやったらしさ」こそ岡本太郎の真骨頂である。

REVIEWER 若山満大さん

東京ステーションギャラリー学芸員。専門は日本近現代美術史・写真史。

展覧会 岡本太郎
2023年1月14日( 土)〜3月14日(火)
場所/愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)

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REVIEW 第20回AAF戯曲賞受賞記念公演『リンチ(戯曲)』

戯曲の「上演」とは何か?


©Kai Maetani

AAF戯曲賞を受賞した羽鳥ヨダ嘉郎による『リンチ(戯曲)』は異常な戯曲だ。意味が読み取れないほど断片化され、「台詞」なのかどうかも怪しい言葉の数々が並ぶこの戯曲。かろうじて読み取れるのは、「おふくろ」と「素人」の会話が主旋律であること、私たちの知らない戦中〜戦後の歴史への眼差しが詰め込まれていること、などごく一部に過ぎず、「あらすじ」を書くことも不可能だ。

この戯曲がどのように上演されるのか?昨年11月に行われた戯曲賞受賞記念公演には、そのような期待や好奇心、あるいは怖いもの見たさを胸に、(比喩ではなく)全国から観客が集まった。

この公演で、演出を担った振付家の余越保子が下した決断は、あえて戯曲の言葉の多くを切り捨てるというものだった。残された僅かな戯曲の言葉たちとともに舞台上で発せられたのは、余越をはじめとする出演者たちの個人的な記憶。母、戦争、放射線治療、差別、鳥葬......。それらが『リンチ(戯曲)』の言葉と響き合うことによって、劇は進行していく。

いったい、なぜこれが戯曲の「上演」なのだろうか?

そもそも、同じ「戯曲」という言葉が使われているが、たとえばチェーホフの『三人姉妹』がロシアの田舎に生きる人々の行動や感情を描くのとは異なり、現代演劇における戯曲は「一つの世界」あるいは「登場人物」を描くだけのものではない。その代わり、現代の劇作家たちが描くのが、私たちが生きるこの世界との複雑な関係性。この世界を解読したり、拒否したり、受け入れたり、別の視点をもたらしたりしながら劇作家は言葉を紡ぎ出していく。だから、その言葉は、あらすじすら拒否するような不明瞭な世界しか描かない。私たちが生きるこの世界に対して「あらすじ」が書けないように。

そのとき、戯曲上演の意味もまた変化する。もしも、『リンチ(戯曲)』の言葉が「素直に」舞台上で上演されたなら、その言葉は舞台上に閉じこもり、この世界との関係を失うだろう。だから、この上演は舞台空間からはみ出しながら世界の複雑さと響き合わなければならなかった。つまり、余越は、出演者の身体やそこに刻まれた個人史を結節点として、「リンチ(戯曲)」が眼差すこの世界の複雑さを引き受けようとしていたのではないか。

AAF戯曲賞は「戯曲とは何か?」という問いを掲げている。そして、この賞を受賞した『リンチ(戯曲)』の上演は、「戯曲の『上演』とは何か?」に対して愚直に向き合っていた。

REVIEWER 萩原雄太さん

演出家、かもめマシーン主宰。第13回AAF戯曲賞受賞。TheatreTreffen International Forum(ベルリン)に参加。

第20回AAF戯曲賞受賞記念公演『リンチ(戯曲)』
2022年11月4日(金)〜6 日(日)
場所/愛知県芸術劇場小ホール(愛知芸術文化センター地下1階)

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