【おでかけAAC】
学芸員とめぐる建築探訪
博物館 明治村

アート・文化施設やモノづくりの現場にでかけてレポートする「おでかけAAC」。
今号は明治建築を保存展示する野外博物館で、明治時代にタイムトリップ。
愛知県美術館の明治展と合わせて訪れると、一層関心が深まる。
撮影/千葉亜津子

写真左より、「博物館 明治村」学芸・催事担当の森川由佳子さん、中野裕子さん(主任学芸員)、反端一也さん。

博物館 明治村
愛知県犬山市内山1
https://www.meijimura.com

入鹿池に面した美しい風景の丘陵地に、昭和40年に開村。春は3月下旬から約1か月にわたり多彩な桜が咲き、明治謎解きアトラクション「江戸川乱歩の不完全な事件帖~十二面相からの予告状~」などのイベントも満載。

本物の価値を残す、伝える
明治をまるごと体感

国の重要文化財や有形文化財に登録された明治建築のほか、明治時代に製造された蒸気機関車(SL)や京都市電などの乗り物、その他貴重な歴史資料も見られる野外博物館。約100万m²を誇る広大な敷地内に1丁目から5丁目まで5つのエリアがあり、1日では回りきれないほど見どころの宝庫なので、今回は「明治を象徴する建築」にポイントを絞って散策。愛知にゆかりのあるもの、芝居小屋やオルガンといった芸術文化に関連したものを加えて案内していただいた。

A 東松家住宅
名古屋市の中心部、堀川の近くにあった町家。油屋を生業としており、何度も増改築を繰り返し、現在の3階建ての店構えに。

B 呉服座(くれはざ)
明治期の歌舞伎や落語、政治演説の舞台にもなった芝居小屋。建物ガイドでは、奈落や回り舞台も必見だ。

C 聖ヨハネ教会堂
礼拝堂には、明治31年頃に製造されたリードオルガンを展示する。2018年クラウドファンディングの支援により、50年以上の時を経て音色が復活。

D 京都市電
乗車体験ができる国内最古の路面電車が村内の3つの駅を結ぶ。車窓の景色や当時の雰囲気を楽しめる。

主任学芸員の中野裕子さんに聞く、明治建築の特徴とは。「明治と言っても、初めと終わりではだいぶ違っていて一言では表せませんが、非常に変化の大きい時代でした。初期に多く造られた欧米の影響を受けた様式を見よう見まねで建てる擬洋風建築は、江戸時代までに培ってきた大工さんの高い技術があってこそ。明治に入り、貿易や国内の鉄道輸送の発達によりレンガやガラス、鉄、ペンキなど使える素材の幅が広がりました。そして後期に建築教育がちゃんとなされるようになると、日本人に最適な建物は何なのかというところまで考えられた『芝川又右衛門邸』などが登場。すべての建物は箱ではなく、使うために建てられているので、学校なら勉強を教える場、家なら生活する場という意図もできるだけ伝えたいです」。

E 芝川又右衛門邸
フランク・ロイド・ライトを日本で最初に紹介した、武田五一の設計。金唐革風漆喰壁をはじめ和洋意匠を折衷した住宅の好例だ。

「明治村」がテーマに掲げるのは「明治体感」。「西郷從道邸」では応接室・食堂・書斎などの部屋ごとに合う家具や調度品が配され、当時の華やかな暮らしぶりを想像するのも楽しい。「美術館や博物館では通常は見るだけの展示が中心ですが、ここでは鹿鳴館で使われていた椅子もお客様に実際に腰掛けていただけます。視線の先に何が見えるのか、座り心地はどうだろうかと五感を通して感じてもらいたいですね」と中野さん。学芸スタッフによる「建物ガイド」(予約不要・無料・約15分)は聞けば聞くほどに発見がある詳しい説明付きで、非公開箇所を含む建物内部も見学できると好評だ。

F 西郷從道邸
西郷隆盛の弟、陸海軍の大臣を歴任した西郷從道が建てた住宅のうち、 接客用に設けられた洋館。当時は、多くの在日外交官が招かれたという。

最後に、中野さんおすすめの建築の見方を教えていただくと、「基本的なことですが、まずは外から眺める。有名建築家が手がけたものでなければ、建築を学んでいる人以外は皆さんすぐ中に入ってしまうと思うんですね。ちょっと離れたところから見ると、建物の形や素材に土地柄が表れていたり、ベランダや屋根の上に付いている煙突もわかりやすく、中には暖炉があるだろうという視点につながります。建物内でも視野を広げてぐるっと見渡し、天井をしげしげとチェックするのも面白いですし、立ったり座ったりした時の景色の違いを楽しんで。さらに、『明治村』で見たりガイドを聞いて知ったりしたことを自分の近所のまちを歩くときにも生かして、地域の文化資源にも目を向けてもらえる人が増えていくと、地域の文化力も上がっていくんじゃないかなと思います」。

G 聖ザビエル天主堂
フランシスコ・ザビエルの来日を記念し、京都に建てられたカトリック教会堂。美しい薔薇窓とステンドグラス、ゴシック様式の空間に注目しよう。

H 宇治山田郵便局舎
現存する最大の木造郵便局舎が、約4年にわたる修理工事を終えて2022年11月より一般公開。

記事の一覧に戻る

BACK NUMBERバックナンバー