木村定三コレクションの江戸絵画―小世界を愉しむ―
愛知県美術館は、近年、名古屋の美術品蒐集家・木村定三氏(1913−2003)の美術品
コレクションの寄贈を受けました。美術館では、考古から近代にわたる膨大な数の作品の
整理を進め、作品のまとまりごとに順次公開を行っています。
2004年には「木村定三コレクションによる熊谷守一」展を開催し、木村氏と親交の
あつかった画家・熊谷守一の作品群をご紹介しました。
今回の「木村定三コレクションの江戸絵画」展は、先の熊谷守一展に続き、
木村定三コレクションの内、江戸絵画の作品群を初めて一堂に公開するものです。
江戸絵画は、同コレクションの中でも、6点の重要文化財を含むことからもわかるように、
特に重要なまとまりの一つです。その中には江戸時代を代表する多様な画家の作品が
含まれており、それらによって江戸時代の画壇を眺めわたすことができるほどです。
それでいて、その蒐集には、もちろん木村氏の好みが反映されています。
ここでは、木村定三コレクションの江戸絵画作品の特徴について触れたいと思います。
一口に江戸絵画といっても、御殿の障壁画のように公的で大規模なものから、
個人の交流により生まれたごく私的で小さな掛軸や画帖類、そして両者の中間的なもの
など、様々な種類の作品が作られています。そして、木村定三コレクションの江戸絵画は
というと、概して小振りな掛軸がほとんどです。少しだけある屏風の作品も、
屏風としては最も小さな形式のものです。これは、日常的に床の間に掛けたり居間に
据えたりすることができる、小さな作品を木村氏が好んで蒐集されたためといえるでしょう。
このことは、木村氏がお茶を好まれたこととも深い関わりがあるようです。
ここで注意したいのは、このような小さな作品を私的に鑑賞することが、
ちょうど江戸時代に盛んになった絵画の愉しみ方の一つでもあることです。桃山時代までは、
絵画はもっぱら貴族や武士などの一握りの権力者のものであり、もちろん私的に愉しむ
ための作品もありましたが、規範にのっとった公的な作品が大半を占めていました。
それが江戸時代になると、彼らに加えて裕福な町人層が台頭してきます。
これらの町人層を中心に、絵画を享受する裾野が格段に広がり、多くの人がより日常的に、
友人同士の集まりなどの親密な場において、その時々の小さな絵画を愉しむという、
鑑賞の形が盛んになるのです。「木村定三コレクションの江戸絵画」展では、
まさにこのようなひと時の贅沢を味わっていただけることでしょう。
なお、愛知県陶磁資料館でも、本展と時期が重なる4月8日から6月18日まで、
「愛知県美術館蔵 木村定三コレクションの茶陶」と題して、木村定三コレクションの
茶陶を公開する展覧会を行います。本展と併せて、ぜひご覧下さい。
(MMa)
1. | 浦上玉堂《秋色半分図》1818年 |
2. | 浦上玉堂《山紅於染図》19世紀初 |
3. | 与謝蕪村《富嶽列松図》18世紀後半 |
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