笠井叡(振付) Akira Kasai(choreography)
何と言うことだろう!
二十世紀最後の四半世紀に始まったこの情報文化は、これまでの歴史、社会、芸術、
経済、政治等のすべてを、その根底から変えてしまった。もはや人間は自分で考える
ことを止め、人間とパーソナル・コンピューターとの差は日増しに消滅して行き、
生と死の境界線はなくなり、やがては唯一の身体的経済行為がある肉体労働も、
ロボットにゆずりわたされようとしている。
そのような「今」、想い起こすがいい。
これが現代における「天照大御神の天の岩戸隠れ」、あるいはギリシア神話で語るなら、
「冥府の王ハーディスによる、生命の女神ペルセポーネの地下の国への幽閉」ではなくて、
何であろうか?
生命の光が、情報の闇に完全に呑まれてしまったのである。
このような「闇の時代」の唯一の光は、ただ、「真の意味のダンスの復活」以外には
ないであろう。現代人は神にも宗教にも国家にもイデオロギーにも、そして科学にも
失望し始めている。
カラダが唯一の「故郷」である時、ダンスがふたたび神話を創るだろう。
とはいえ、それは自分の持っているものすべてと引き換えにしてのみ成り立つ、
「悲劇的な賭け」である。
それでも「天の岩戸」は、今開かれなければならない。
「人間の尊厳」のためでも、自分の帰属する民族のためでもない。
ただ、自分が生まれて来た証しのようなものとして。
手塚眞(演出) Macoto Tezka(visual image)
まず最初にこの企画を聞いたとき、有名な神話であるアマテラスの岩戸隠れという物語を
「UZME」という舞台作品として見せること以上に、自分がこの創作に関わることで
何かが見えてくるのではないか、ということを直感的に感じました。
それから、自分とウズメの接点はどこにあるのかを探し始めたのです。
「UZME」に惹かれた理由にはいろいろありますが、公演日程が9・11
(セプテンバー・イレブン)にかかるということも大きな要因でした。
9・11以降、世界の人々の気持ち中のアマテラスが隠れてしまったような気がして、
それを呼び覚ますために何か出来ることがあればと思いました。
ただ単に昔のウズメという物語を舞台にのせて語るのではなく、今を生きる人たちの
心の闇を少しでも祓うようなアートが創れるのであれば最高です。
もうひとつ、ウズメを調べていくと、サルタヒコという神様が出てくるのですが、
手塚治虫が「火の鳥」の中で取り上げているなど、自分の中で縁が深いと感じていた
人物ということもあって、これはやらねばと、強く感じました。
愛・地球博のテーマなど、いろいろな想いやキッカケが重なって、全てが必然であったか
のようにこの舞台に集約されていったと思います。
「ダンスオペラ」という新しい形式の中で、テーマにも重なる「光と闇」というものを
ステージの上でどう表現できるかを考えています。この舞台を見た人すべてに、
それぞれの心の"光"と"闇"を感じてもらえればと思います。(談)
橋本一子(音楽) Ichiko Hashimoto(music)
ダンサー、振り付け、演出、美術、声、表現形態は異なってはいても、それぞれが、独自に、深く豊かな世界を築き上げることに、苦しみ、そして喜びを見出してゆく、ということは共通しています。今回この多くの要素を終結させたコラボレーションによって、関わる私たち、そして観る人すべてが、そのカオスの中から立ち上がってくる、スリルと、喜び、興奮を分かち合えることを...