音楽とダンスのコラボレーション
ミュージシャンの至福のとき


  「森の中のパレード」の音楽編成にあたって、ダンス・カンパニー・コンドルズとのコラボレーションが中心となるため、柔軟な音楽性と優れた構成力で幅広い活動を行っている仙波清彦氏に音楽監督を依頼、ジャズやロックなどのジャンルで活躍する個性豊かなミュージシャン達の参加を得たバンドは、特別編成の「HANIWA EXPO BAND」と名付けられ、その活動を開始した。 
 選曲にあたっては、コンドルズとのコラボレーション用の曲については、事前に演出の近藤良平氏から提示されていた各シーンごとの音のイメージを基に、それぞれの音のイメージ(タイプ)にあったミュージシャンに編曲・作曲を依頼。BANDコーナーで演奏する曲については、金子飛鳥、鬼怒無月、沼井雅之の各氏から候補曲として提示されたオリジナル曲の中から音楽タイプの異なる楽曲を選曲、結果的に「気分はロック・精神はジャズ(逆もあったが)」で音楽全体を構成することになった。
 ダンスとのコラボレーションもさることながら、音楽でもドラマー3人、パーカッション2人、和太鼓1人、何れも活動する分野の異なる打楽器陣に加えてキーボード、 ベース、ギター、ヴァイオリンという、リズム隊を中心とした特異な楽器編成で行ったため、リズムのアンサンブル(グルーブ)を創るだけでも大変な作業になった。9月の音楽リハーサル2日間と10月下旬の2日間の全体稽古を通し、リハーサルを重ねるごとに個々のミュージシャンが演奏する音に触発されていく。その音に自身の発想や音楽力で応え、そして他のミュージシャンとの間合いをはかりつつ自身が担う役割を見いだし、その存在を明らかにしてひとつひとつの音楽を創り上げていくのだ。
 いわばこれは音楽家間のコラボレーションであり、ミュージシャンの至福の時でもある。
 そして、この時を経た彼らは、一体となった「BAND」として、よみうりランドオープンシアター EASTでの初日を迎え、コンドルズや子供達とともに、圧倒的なパワーと躍動感に溢れたステージを繰り広げた。

本村鐐之輔(音楽プロデューサー)



アーティストと共に
全身で探検した“表現の森”


 一流の舞踊家と音楽家がひとつの舞台で衝突した「森の中のパレード」は、自然と身体も心も熱くなるコラボレーションだった。人気ダンス集団コンドルズの主宰・近藤良平が演出・振付を、パーカッショニストの仙波清彦が音楽監督を担当。副題に“音楽が踊る ダンスが聴こえる”とうたわれていたとおり、時としてバンドの方が踊っているように見えたり、ダンサーの動きが音や音楽を体現しているんだということを再確認したり、視覚と聴覚を複雑に刺激される体験となった。
 幕開けは、名門・愛知工業大学名電高校吹奏楽部の演奏。俄然パレード気分の高まったところで、近藤お得意の映像が挿入される。そこには二人の少女と、愛・地球博のメインキャラクター“モリゾーとキッコロ”の姿が!
 この企画は万博プレイベントだったのだ。映像が終わると、コンドルズユースと名づけ られた小中学生の一群が登場。にわかに舞台は万博当日となり、ニセのテープカットまで行われてしまう。そして、これまたニセのモリゾーとキッコロらしき生き物が乱入したかと思えば、ダンスありバンド演奏ありコントありのお祭ムード一色に!! もちろん、本物のモリゾーとキッコロも飛び出してきてなかなか達者な演技を見せるが、二人はなぜか現れては消え、現れては消え……。
 どうやらこれは、モリゾーとキッコロを探す物語らしい。万博会場の“森”にやってき子どもたちが二人に出会ったものの、相手は妖精だけに神出鬼没。そこで、子ども探検隊を結成して森の中をさまよう。しかし、手探りの冒険を楽しんでいたのは子どもだけじゃない。会場に居合わせた誰もがドキドキしていたはずだ。“表現”という名の果てしない森をさまよう探検に。
 ダンサーの名目で公募された子どもたちだが、コントにも挑戦。そして、音楽との緊密な構成の中で一生懸命に踊った。そんな彼らを、身をもってリードしたのが近藤だ。彼は、前回の愛知公演ではあまり見せなかったソロを2度も見せた。気鋭ミュージシャンたちとの真剣勝負さながらの即興は、子どもたちに表現することの楽しさだけだなく、恐さや厳しさをもきっちりと伝えたのだ。
 やがて、フィナーレ。センターに近藤が立ち、コンドルズとユースの全員が踊る。魂を削るような表現活動にも勇敢に突き進んでいく強さを背中で見せた近藤は、まさに身体のプロ=ダンサーだと実感した。

小島祐未子(ぴあ中部版 演劇担当)