第3回 愛知県芸術劇場演劇フェスティバル

愛知県芸術劇場小ホール
◎ 劇団I.Q150「東仙台物語」一大改訂版
2003年4月18日(金)〜20日(日) 〈 4公演 〉
◎ 総合劇集団俳優館
「Fly Me To The Moon 〜わたしを月につれてって〜」
2003年4月25日(金)〜27日(日) 〈 4公演 〉
◎ 劇団シアターガッツ「初恋のひと」
2003年5月15日(木)〜18日(日) 〈 6公演 〉
◎ 演劇弁当猫ニャー「弁償するとき目が光る」
2003年5月24日(土)、25日(日) 〈 4公演 〉

多様化する演劇の道標
〜第3回愛知県芸術劇場演劇フェスティバルをふりかえって〜

 「挑戦があってこそ芸術は切り開かれる」とよく言われるが、演劇もその歴史をたどれば挑戦の歴史である。日本の演劇史を見ても、能、狂言、文楽、歌舞伎、新劇、現代劇、ミュージカル、小劇場演劇…と、いろいろな足跡を刻みながら現在に至っている。日本では西欧のように国立や公立の演劇大学がなく、先駆者が自在にそれぞれの次代を反映しながら多様な演劇を生み出してきた。そのような現状を踏まえ、地元を中心とした演劇界の活性化と振興を目的に平成13年に発足したのが「愛知県芸術劇場演劇フェスティバル」である。このフェスティバルの特色は、毎回テーマを決め、応募できる演劇団体が地元だけでなく、広く全国に開かれていることである。会場は愛知県芸術劇場小ホールで、公演経費の一部が、150万円を上限として助成される。

 3回目を迎えた今年のテーマは「家族」で、全国から12団体の応募があり、その中から劇団I.Q150(仙台市)の『東仙台物語』−大改訂版、総合劇集団俳優館(名古屋市)の『Fly Me To The Moon 〜わたしを月につれてって〜』、劇団シアターガッツ(愛知県大府市)の『初恋のひと』、演劇弁当猫ニャー(東京都)の『弁償するとき目が光る』の4作品が選ばれ、4月、5月の各中下旬にそれぞれ上演された。

 『東仙台物語』(丹野久美子作・演出)は、母と娘4人、それに住み込みの従業員が3人という廃品回収業兼コロッケ屋の奇妙な大家族が引き起こす騒動を描きながら、女性のたくましさと憎めない男性たちへのやさしさが見事に表出された。娘たちがそれぞれ個性があり、廃品回収担当の二女が回収してきた段ボール箱の中に、家出していた父親が入っていたという、ありそうもない話をもっともらしく見せる戯謔に富んだ芝居作りがパワフルで魅力的であった。

 『Fly Me To The Moon』(右来左往作・演出)は、アポロ11号が月に着陸した翌年、小学校2年生の子どもたちが夏休みの3週間に体験した幼い恋愛事件や身障者への思いやりなど、友達や家族との甘くて切ない思い出が、軽快なリズムでテンポよく表出された。大人が子どもを演じることはかなり技量を要するが、俳優館の俳優陣はアンサンブルよく、清涼感を漂わせた舞台に仕上げた。

 『初恋のひと』(品川浩幸作・演出)は、倦怠期の夫婦、アツアツの新婚夫婦、それに突然交通事故死した女とその夫が絡む恋愛コメディーで、ナンセンスな遊びを織り込みながら夫婦のきずな、真の夫婦愛とは何かを考えさせた。クライマックスは交通事故死した女がアツアツ夫婦の夫の「初恋の人」であり、仏前での残された夫との対決が男女の心理を巧みに映し出した。

 『弁償するとき目が光る』(ブルースカイ作・演出)は、自分が何か弁償すると目が光るという奇病を持つ女を救うための騒動が、精神科病室、宇宙ステーション、人間の口の中などを舞台に繰り広げられるコント芝居であったがシュールな笑いの中に人間愛を謳いあげたところが非凡だった。たとえば間口一杯くちびるが上下に動く口の装置は、見ただけでも面白く、“くだらなさを追求する姿勢”が注目された。

 この4作品を見ても作り方は同じではない。このフェスティバルが多様化し進化する演劇の道標として、その役割を果たすことを願っている。

河野光雄(演劇ジャーナリスト)

上から「劇団シアターガッツ」「劇団I.Q150」「演劇弁当猫ニャー」「総合劇集団俳優館」


写真/安井 豊彦