アート・プロムナード1
「カルテット&ダンス」

音楽とダンスの再統合をめざす試み

 既存の音楽作品をライブで演奏してもらい、そこに振付をしていく――。

 このような音楽先行のコラボレーションにおいて、振付家は「音楽的な本質を失うことなくダンスの視覚的な特性をいかに発揮できるか」を問われることになる。言い換えれば、芸術家は自らの表現に対する模索と同時に、異ジャンルの芸術に対する、より深い敬意と理解を求められる。

 今回、振付家はストラヴィンスキーとシュニトケという、20世紀を代表する作曲家による、舞踊家にとっては、もっとも刺激的かつ難曲に挑んだ。いずれもバレエやオペラ、映画音楽など、視覚芸術との関わりが非常に深い音楽家の作品である。

 20世紀以降、芸術の自律という言葉の下に乖離してしまった音楽とダンスの再融合を達成し、真の意味での総合芸術を実現することは、愛知県文化情報センターのダンス・プロデュース公演の大きな目標であり、今回のコラボレーションもその基調に立った企画であった。

 メンバーは、チェコから来た弦楽四重奏団、ヴィーナス(カプラロヴァ)カルテットと日本の若手ダンサー4名のパフォーマンス・ユニットUhf(ウッフ)の女性ばかり8名。

 企画の狙いのひとつは、4対4という(人数の上で対等な)構成に象徴されるように、小編成の楽団ならではの柔軟性を活かした、音楽とダンスのより濃密な関係を生み出すこと。もうひとつは、現代音楽とコンテンポラリー・ダンスとの、両「現代性」の出会いによる、新しい可能性の発見である。

ストラヴィンスキー作曲
「弦楽四重奏のための3つの小品」

(「ダンス」・「エキセントリック」・「賛歌」)

 ストラヴィンスキーは、20世紀最大の作曲家であり、音楽と舞踊との融合をめざした音楽家でもある。彼はその作品がダンスのために創られた音楽ではない場合ですら、観客が彼の作品を「目を閉じて聴く」のではなく、「音楽家の動きをも観賞する」ことを望んだ。振付の小山史野は、彼女独自の想像力をもって、「音楽の視覚化」に挑戦した。


 20世紀初頭、新しい(コンテンポラリー)ダンスは、このストラヴィンスキーという稀有の作曲家を得て生まれたといってもよいだろう。ダンスと音楽の融合、それは人間が「自らを表現する」ことを始めた原始より、自然発生的に始まったものであり、それゆえにひとの魂を揺さぶらずにはおかないのである。


シュニトケ作曲「弦楽四重奏第3番」

 「多様主義」と呼ばれる、過去から借用した作品のモティーフをもとに、シュニトケ独自の多義的な世界を創り出した彼の代表作のひとつ。ダンスも音楽に合わせて動いたかと思えば、突然具体的な身振りが現れたり、時に日常の動きが挿入されたり、処々にユーモラスな動きを散りばめ、コラージュ的な手法で今日的なダンスの在り方を試みている。


 考えてみると、例えば、ひとの想念だって、ひとつところに留まってはいない。ひとのこころには、常に脈絡なく様々なイメージが、浮かんでは消え、跳躍しているのではないだろうか。ここでのダンスは、身体の内側から自然に生み出されてくる、跳躍するイメージのダンスであり、そのパートナーとしてシュニトケの音楽は最適であった。

 パフォーマンスは、愛知芸術文化センターの、高さ50mにわたる巨大な吹き抜け空間で行われた。この吹き抜けは、複合文化施設である当センターの劇場・美術館・ライブラリーといった諸機能をつなぐ象徴的な公共空間である。自主事業では、これらの場所で、異ジャンル間の刺激的なパフォーマンスを重ねることによって、「機能としての日常空間」を、越境と融合を象徴する「記憶される都市劇場」へと生まれ変わらせることに取り組んできた。

 こうしたフォーラムでの公演は、何気なく足を止めて見入る人々の、芸術への垣根、あるいはジャンルに対する思い込みを取り払い、芸術のもつ真の創造性に触れていただく貴重な機会となっている。

 今年度も、愛知県文化情報センターのプロデュース事業では、皆様の想像力を刺激する多彩な催しを企画していきます。

(E.K.)

写真/南部 辰雄