「都市のダンス」感じる2集団

 愛知芸術文化センターが2月8日に東京から2つの若手ダンスカンパニー、珍しいキノコ舞踊団とレニ・バッソを招き、「都会をダンス」と題する公演を行った。

 会場となった小ホールのある地下1階から続く地下2階までのフォーラムU(公共スペース)に集まった観客や、偶然通りかかったお客さんを巻き込んでのパフォーマンスからすでに珍しいキノコ舞踊団の『ウィズユー3』は始まっていた。この劇場のロビーは吹き抜けの大空間になっていて、上階部分は回廊状にそれぞれの廊下が取り囲み、それぞれの階をつなぐ階段やエスカレーターからその吹き抜け全体が見渡せるような開放性の高い空間を構成している。キノコの6人のダンサーはまずエスカレーターから連れだって降りてきて、音楽に合わせて踊り始め、それが終わると階上へ階下へと移動していく。

 ダンスというとバレエのように観客席から隔てられた舞台上で踊られ、それを観客が着席して静かに鑑賞するのが普通だが、キノコの舞台はこうした舞台/観客の壁を取り払って観客との間にいつのまにか親密(インティメート)な空間を作り上げてしまう。エスカレーターの上で片足上げたままバランスを取ってみたり、拡声器を使ってチェッカーズを伊藤千枝が歌いだすとそれに合わせて残りのメンバーが踊ってみせる。突然、全員で開店している最中のショップに踊りながら入っていってしまい絵葉書やそこに並べてある商品を物色する。どこからか案内表示の看板を持ってきて、いつのまにかそれと一緒に踊ってしまう。劇場に移動してからもそれは同じで、美術や小道具を提供しているアーティスト「生意気」との関係はコラボレーションというよりも、限りなく楽しく遊べそうな遊び道具を与えられた子供に近い。キノコを見ている時の観客は皆一様に楽しそうで、「頑張れ」って応援している感じ。これって何かに似ていると思って考えたら、我が子が参加している時の学芸会や運動会の両親の雰囲気なのである。

 一方、レニ・バッソの特徴は圧倒的な「カッコよさ」にある。観客を突き放したような「クールでスタイリッシュ」な感覚がレニ・バッソの北村明子の持ち味。最近の彼女の作品ではディスコミュニケーション/コミュニケーションという人間相互の関係性がモチーフとなっているが、その代表がこの日上演された『Finks』で、6人のダンサーはハイスピードでハードエッジな動きで、互いの領域を一方が侵犯していくと、もう片方はそれを回避し、相互に限りなく接近しながら決して触れあうことのない現代日本の都市生活者の関係性を抽象化したようなダンスを繰り返す。

 その激しいムーブメントはストリートダンスや卓越した武道家同士の立合いを連想させるようなもので、スリリングなそれでいて洗練されたせめぎあいを舞台上に現出していく。なかでも最後に登場する北村のソロは爆発的であり、もう少し見ていたいと思っているところで終わってしまうのが惜しまれるほどだ。

 彼女の作品ではビデオプロジェクターを駆使した無機的なメッセージや記号を含んだ照明(関口祐二)、テクノ、ノイズなど様々な音楽をサンプリングした強度を持つ音響(江村桂吾)、CGによるコンセプチャルな映像(兼子明彦)がそれぞれに舞台上で強い自己主張をしあい、そのせめぎあいがコンテンポラリーダンスの最先端といえる「カッコよさ」を醸し出していく。こうした様々な要素が唸りとなって舞台上に巻き起こしていく圧倒的なドライブ感はまさにここならではの魅力であった。

 表現の方向性は180度も異なるがこの2つのカンパニーの共通点はパリでもニューヨークでもなく「今の日本の大都市(東京を中心とする)」が生みだしたそれを象徴するような表現であること。90年代の日本のダンスの特色はその多様性にあり、今回はそれを対照的な2つのカンパニーを並べる形で俯瞰してみせたという意味で実に新鮮なプログラムだった。

中西 理 (演劇コラムニスト)


左:珍しいキノコ舞踊団
『ウィズユー3』
伊藤千枝振付

右:レニバッソ
『Finks(フィンクス)』
北村明子振付

写真/南部 辰雄