生きのびるためのデザイン
バックミンスター・フラー展
  

 バックミンスター・フラーは1950年代からアメリカ、カナダの各地に「ジオデシック・ドーム」を建設して、1967年のモントリオール万国博覧会のために設計したアメリカ館ドームによって、世界的な名声を築いた。彼のドーム建築は、「最小限によって最大限をおこなう」、つまり素材の量と重さ、時間、コスト、労力などの条件をできるだけ小さくしつつ、最も大きな空間を包むという理念を実現したものである。


 社会的な成功を収めながらも、フラーが世界の建築界に向かって主張したのは、彼が開発したドーム建築の効用にとどまらず、人類が直面している危機に対して建築家に何ができるかという大きな問題だった。彼はこう考えていた。工業の発展の恩恵を受けているのは、全人類のうち、先進国に住む44パーセントの人々にすぎない。人類の過半数は、先進国の人々よりもはるかに低い条件で生活を続けている。そして、地球上の人口はますます増加するのに対し、人間ひとりあたりが利用できる資源は少なくなる一方である。人類の歴史をふりかえると、この資源不足という根本的な問題を解決する方法は、生存競争としての戦争しかなかった。そして、現実の政治では、戦争にかわる方策をとることはまったく期待できない。

 フラーは、1963年にメキシコで開かれた国際建築家協会のシンポジウムでの講演「ワールド・デザイン・イニシアティブ」の中で、人類すべてが地球の資源を有効に利用するための「デザイン科学」によって建築家は人類の未来に貢献できると呼びかけている。「建築家は核戦争の脅威を解消することができる。それは核シェルター計画ではなく、新しいデザイン科学の力のことである。それによって、世界の資源問題を解決し、繰り返される世界戦争と核兵器による終末の危機を免れることができるのだ。あなた方建築家は、人類に対して、歴史上前例のないほど重要で決定的な貢献をおこなうことになる。……ハルマゲドンを避けるために政治家が遅鈍で放任主義の政策しかとっていないのに対して、私たちは速やかな方策をとることができる。それがメ建築のイニシアティブモなのだ。」


 資源、人口増加、豊かな国と貧しい国の差の拡大という問題を視野に入れ、人類全体の利益を訴えたフラーの言葉に、今日の私たちは改めて耳を傾けるべきではなかろうか。

【H.M.】