富岡鉄斎(1836-1924)は、古今和漢の深い学識を背景に,流派を問わず広く古画から学びつつ、斬新な構図や鮮烈な色彩感覚,重厚で緻密な造形力などによって、崇高な理想郷を描き出した作家として知られています。
とくに、人間性や自然の実在感に対する本質的な追求をしたその姿勢は〈最後の文人画家〉と呼ばれるにふさわしく、また国内のみに留まらず海外においても,日本の近代美術を代表する画家として高い評価を受けています。エコール・ド・パリの画家ジュエール・パスキンは「近代日本画壇の持つ唯一の世界的な作家」と評し、ドイツの建築家ブルーノ・タウトは「セザンヌを想起する」と語り、またブラジルの美術評論家マリオ・ペドローザは「ゴヤ、セザンヌと共に19世紀の三大画家である」と述べています。
鉄斎の生きた時代は,幕末から明治,大正と,ちょうどわが国の近代化の展開期であり,日本の絵画は西洋絵画の影響を強く受けながら歩み始めていました。そうしたなか鉄斎は,「万巻の書を読み万里の路を行く」という中国明代の画家董其昌の言葉を実践することによって自ら画境を開きました。それは、固定化した伝統や世俗の流れにとらわれることのない自由な精神によって,崇高な理想の世界を誰にでも親しみやすく,実在感豊かに語りかけるものでした。そして、西洋化・近代化の渦に呑み込まれることなく独自の世界を形成した鉄斎の芸術は,〈日本の絵画とは何か〉とあらためて問い直されている今日においても新たな関心が寄せられるところで,現代から未来へと新鮮な輝きを放ち続けることでしょう。
本展は,鉄斎の全画業の展開を回顧する形式によるものではなく,幅広い鉄斎芸術の中から,その魅力と本質をよく示す幾つかの重要なテーマを抽出し,そのテーマにふさわしい作品を選出し構成しています。例えば,山水画では旅人としての鉄斎を示す「真景図」をテーマとした部門で《富士山図》や《妙義山図・泥八丁図》などの作品,文人として脱浴的な生活を希求する「桃源郷」や「聖界」をテーマとしたところでは《青緑山水図》や《蓬莢仙鏡図》。花卉鳥獣画では《碧桃寿鳥図》や《富而不驕図》などの作品。また、人物画としては,「日本や中国の歴史的人物」や「道釈図」そして鉄斎が特に私淑した「蘇東坡」などをテーマとした部分で《阿倍仲麻呂賞月図》《十六羅漢図》《東坡三養図》などの代表的な作品によって構成しています。
今回の展覧会では,鉄斎作品の収集と研究・顕彰活動で知られる清荒神清澄寺をはじめ国公立の博物館や美術館,私立の美術館,そして各寺院や個人ご所蔵家からも多くのご協力を賜り,鉄斎芸術の魅力を語る屏風、掛軸、扇面、巻子,画軸などの名品約160点を展示します。
【B.K.】
* なお、本展は作品保護のために前期・後期にわけて展示替えを行います。
富岡鉄斎展
1996年9月27日(金)−11月10日(日)
(前期:9月27日〜10月20日,後期:10月22日〜11月10日)
愛知県美術館
月曜日休館(但し11月4日は開館,11月5日は休館)
午前10時〜午後6時/金曜日は午後8時まで(入館は閉館30分前まで)
入場料 一般1、000円(800円)
高校・大学生700円(500円)
小・中学生400円(200円)
* ( )内は前売り、及び20名以上の団体料金
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