ダンス・ワークショップ(体験工房)レヴュー
アンサンブル・ゾネ ダンス・ワークショップ
講師:岡登志子、ビオラ・ローガー
実際に自分で動いて、ダンスを体験してみる「ダンス・ワークショップ」。このワークショップには実に様々な種類があり、それは講師の数だけ存在するともいえる。「踊る」以前のまさに生の「身体」を感じることから、ダンス作品を創る手法、作品鑑賞の手がかり、動きによって身体と心を治療するセラピーのようなもの等、開催の目的も、参加者の意識もまた多様である。
関西のダンス・グループ、アンサンブル・ゾネを主宰する岡登志子が学んだのは、ピナ・バウシュやスザンネ・リンケを輩出したドイツのフォルクヴァング大学の舞踊料。フォルクヴァング大学は、1927年にクルト・ヨースとジーゴード・レーダーによって設立され、そのメソッドは、モダンダンス理論の父とも呼ばれ、現在でもなお舞踊界に多大な影響を与え続けているルドルフ・ラバンの理論に基づく。長い伝統に支えられたメソッドは、どのようなもので、その理想と掲げられるものは何なのか。
講師ではなく、あくまでナビゲーターとして参加者のお手伝いをしたい、と語る岡に語ってもらった。
フォルクヴァング大学の舞踊科におけるメソッド
フォルクヴァング大学はピナ・バウシュの出身校だったりして、なにか特別なことをやっているように思われがちですが、そこにあるものは身体へのこだわりであり、それを伝統として残しているということが大変な驚きでした。今回のワークショップでは、メソッドをそのままやるのではなく、かなりかみ砕いていますが、根底にあるのものは全く同じで、呼吸、重力、空間という面から身体と動きについて考えることです。
ひとつのことを大学では本当に長々とやるんです。呼吸法ひとつとってみても、ドイツの冬の寒い朝、白い息を吐きながら、非常に地味なレッスンをします。外から見たら、何をしているのかわからないほどですが、基礎的な訓練を長くやってはじめて、身体というものがわかっていくんです。そのことを少しずつ自覚しながら身体を使うことによって、ダンサーになっていく人が多いのです。テクニックをやるまえに、まず自分の身体を自覚していくことが第一歩です。だから音楽にしても、カセットテープの音楽に合わせてやるのではなく、やはり主体は身体なんですね。ピアニストがいつもいて、人の踊っている呼吸に合わせて弾いていくのです。身体で蒔いたリズムを音にしているので、身体から生まれてくるリズムをいつも感じているんです。
一般の人を対象にしたワークショップで参加者に望むこと
今の社会は、便利になって日々手先だけで暮らすことができたり、身体が置き去りにされていることが多いと思います。身体というのは、誰もが生まれたときからもっているものですから、自分の身体に対して耳を傾けていく時間をもつことによって、表現をするしないに関わらず、それぞれの自己の発見につながっていけばと思います。しかし自分の身体であるが故にちゃんと意識することはむつかしいのです。こういうなかなかわかりにくい要素と向き合う場合には、本当の感覚というものを探すことがとてもとても大事なんです。例えばレッスンの場に鏡があるのとないのでは随分違う。鏡があるとつい目で見てわかってしまうように錯覚しますが、鏡がないことによって、自分で感じられることを忠実に身体が示してくれる。フォルムだけ見てできたと思い込むのはとても危ないことです。実感をして動いていくのが身体を知る上で大切なことです。その時の本当の感覚を感じ取るのは、自分だけだと思うので、それを探す作業というのがとても大事です。
名古屋でワークショップをやられてみた感想は?
今日は三日目で、みなさんの呼吸の音が大きいと思われませんでしたか?やはり、時間と共に目覚めていく身体の部分があると思います。例えば、今日は主に手の動きを中心にやりましたが、普段あまり感じないけれども重力について意識することも大切です。ある意味で、基本的な人間の感覚が麻痺している部分もあると思うのです。ですがこの三日間で少しずつ手応えを感じられたのではないでしょうか。
アンサンブル・ゾネ ワークショップ スケジュール
第2回/96年 5月 1日(水)〜 5月 2日(木)
第3回/96年10月10日(祝)〜10月12日(土)
第4回/96年12月21日(土)〜12月23日(祝)
第5回/97年 2月 7日(金)〜 2月 9日(日)
【採録、構成/E.K.,写真撮影/南部辰雄】
|