メトロポリス
1926年製作、フリッツ・ラング監督のドイツ映画《メトロポリス》は21世紀の未来都市を描いた作品である。制作に二年の歳月と巨費を投じ、ジョルジュ・メリエスの《月世界旅行》以来のSF映画の流れを受け継いだ、四時間を越える大作であった。
この映画に登場する摩天楼や地下工場などの表現主義的な造形やミニチュアのセットを拡大して実物と合成する特殊撮影技術は、当時、大評判となった。原作はラングの妻が書いたものだが、独占資本家と労働者の代表が和解するという労資協調をうたう主題は多くの非難を浴び、「映画技法的には比類なき成功作だが、人間的見地からは恐るべき無知を暴露した駄作」と批評された。
封切り当時、この映画を見たヒトラーとゲッペルスは、ナチが政権をとった時にはこの監督に〈ナチス映画〉を作らせようと話し合ったという。1932年、ナチは第一党の座につく。1933年3月、ナチ宣伝相ゲッペルスからの制作依頼を受けた夜、ラングは国外へ脱出、やがてハリウッドで映画を作るようになる。後年、ラング自身が、《メトロポリス》は失敗作であったことを認めている。
◎ 裏表紙写真/映画《メトロポリス》より
写真提供潟Aイ・ヴィー・シー
※このLPはアートプラザにて観賞できます。
表紙写真の彫刻《真鍮の首》は1925年のルドルフ・ベリングの作品だが、その様式化された造形は《メトロポリス》に登場する「人間の形をした機械」(ロボット)を連想させる。
1937年、《真鍮の首》は、ナチが「反ドイツ的」と決めつけた作品を展示した頽廃美術展に展示された。ところが、道を隔てて同時に開催されていた第三帝国公認の大ドイツ美術展にもベリングの作品が展示されており、結局、《真鍮の首》は頽廃美術展から外された経緯を持つ。《真鍮の首》がナチの気に入らなかったのは、真鍮という素材がナチ好みのローマ風ではなかったからだが、一方、大ドイツ美術展に展示されたのはブロンズ彫刻《ボクサー、マックス・シュメーリング》であった。
マックス・シュメーリングは1930-32年のヘビー級世界チャンピョンで、ナチが祭り上げた国民的英雄であった。第二次大戦直前のベルリンには多くの芸術家たちが輩出し、今も光を放っている。誰もが激動する社会との関係を明確に選択することを迫られた時代であった。
◎ 表紙写真 ルドルフ・ベリング《真鍮の首》(1925年)
● Front Page/Rudolf Belling《Brass Head》(1925)
Skulpturemuseum Glaskasten,Marl
この作品は「表現主義彫刻 ドイツ現代美術へのプロローグ
1890-1920」展に展示されます。
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