コスチュームジュエリー
美の変革者たち
世界的コレクターを訪ねて

素材よりもファッション性やデザイン性に重点を置き、
アーティストの個性豊かな表現が光るコスチュームジュエリー。
日本初の展覧会を監修したコスチュームジュエリーの研究家でありコレクターの小瀧千佐子氏に、
美意識や想いについて話を伺った。
聞き手/愛知県美術館 主任学芸員 森美樹 撮影/海野俊明

小瀧千佐子 Chisako Kotaki

1947年東京都生まれ。大学卒業後、エールフランス航空に就職。20世紀のヴェネチアンガラス、コスチュームジュエリー、ヴェネチアンビーズのコレクションと研究を開始し、コレクター歴は40年ほど。2014年東京・北参道のショップ・ブランド「chisa」をスタート。作品の総合プロデュースを行う傍ら、美術展への作品出展、執筆活動を行う。

今回のインタビュー時には、スキャパレッリのネックレスとイヤリングを着用して。

chisa
東京都渋谷区千駄ヶ谷4-21-2
https://chisa.jp/
「美しさを、育てる」をテーマに、ヴェネチアンガラス、ヴィンテージコスチュームジュエリーをセレクト。小さなカフェも併設。

小瀧さんがコスチュームジュエリーに関心を持たれたきっかけを教えてください。

コスチュームジュエリーのコレクションや研究を本格化する前に、ヴェネチアンガラスとの出会いがありました。ヴェネチアンガラスは当時の日本ではほとんど知られていなかったので、前職を辞めて「私が紹介するしかない」という無謀な取り組みを35歳くらいで始めています。

子どもの頃からガラスに興味があって。病院で見たブルーや赤の薬瓶、母が持っていたガラスのかんざしを、なんて綺麗なんだろうって、ながめていた記憶があります。日本舞踊の稽古をしていたので、私の美の原点は、着物や帯、櫛、かんざし...。色彩の感覚はその辺りで育っていると思います。大学を卒業し、エールフランス航空に就職したわけですけれども、フライトとフライトの間の休みにアンティークマーケットでガラス工芸を買い集めるようになりました。コスチュームジュエリーにもガラス素材が使われていることに気づいて惹かれたのがスタート。今から50年程前のことです。コレクターによって全く集める内容が違ってまいりますので、私の目を通して、美しい、上質だと思ったものを収集しています。

スキャパレッリ《ネックレス“葉”》
デザイン/制作:ジャン・クレモン 1937年頃
クリアエナメル彩メタル、メタルメッシュ 個人蔵

ずっと続けるエネルギーはすごいです。コスチュームジュエリーの魅力とは。

まず、これが一番大事なのですけれど、職人の手作りであること。私はどうやら、職人の手の温もりがあるものにすごく愛着を感じるようで、量産品にはあまり感動しないんです。コスチュームジュエリーも裏を見て、職人の仕事がきちんと見えるものが私は好きですね。手作りのものは、同じデザインでも各々表情が違って楽しいです。アーティストやデザイナーだけでなく、彼らの想いを表現できる職人、そして時代の要求、その三拍子がピタッと揃ったときに、アートと呼ばれるコスチュームジュエリーが生まれるのだと私は思います。1920〜60年くらいに開花し、秀作が多数生まれました。私が集めているのもその時代の作品が中心。その後は時代とともに職人が減り、製造が難しくなっていきます。元々手作りなので数は少なく、世界で数名しかいないコレクターのところにお尋ねして、何度も通い、私の熱意を伝えて、お持ちのコレクションを分けていただくのはとても苦労しました。それをコツコツコツコツ続けて、展覧会では職人の卓越した技術に裏付けされた作品を450点程披露します。

メゾン・グリポワ《イヤリング》
デザイン:ジョゼット・グリポワ
制作:メゾン・グリポワ 1989年
パート・ド・ヴェール・エナメル
ガラス、カボションガラス、模造パール、メタル
個人蔵

長年のコレクションが全国巡回する展覧会への思いをお聞かせください。

欧米で根付いているコスチュームジュエリーの文化ですが、日本ではまだ知られていないので、いつかご紹介したいと思っていました。そしてこの度、うれしいことに全国5か所の美術館にて展覧することとなりました。昨年、東京のパナソニック汐留美術館の開館20周年記念展としてスタートし、こんなに反響があるとは思わず、ありがたかったですね。

日本でもファッション展はたくさん開催されていますが、主役はドレスで、ジュエリーはどこか隅に数点飾ってあるだけ。コスチュームジュエリーにスポットを当てた包括的な展覧会は日本初です。ファッションを引き立てるためのジュエリーとして発展したのですが、次第に独自の道を歩んで行きました。そこには、それぞれのアーティストが生み出した様式美があります。私が大切に集めているのは、二つの世界大戦をくぐり抜けて生き残ったジュエリーたち。20世紀初頭の誕生から100年を迎える今、アートとして認識されるべきだと思っています。今回、歴史やアーティストについてまとめた図録も完成しましたし、展覧会で皆さまに作品を見ていただけることが私にとってなにより幸せです。

コッポラ・エ・トッポ《ビブネックレス“花”モチーフ》
デザイン:リダ・コッポラ
制作:コッポラ・エ・トッポ 1964年
スワロスキー
マルガリータクリスタルビーズ、ガラスビーズ、メタル
小瀧千佐子蔵

コスチュームジュエリーの文化や歴史、
魅力について深掘りしたカタログは、
見応え読み応えともに充実。

見どころや鑑賞の楽しみ方、ご来館のお客さまへのメッセージを。

ご存じのシャネルやディオールから、リーン・ヴォートラン、コッポラ・エ・トッポといった、まだ日本で知られていないアーティストのジュエリーまで見ていただけるのが嬉しいです。シャネルのライバルであったスキャパレッリは戦前と戦後で作風が異なり、シュールレアリスムを捨てて、アメリカに新しい自分の世界を作っていく生きざまがわかりやすくておもしろいと思います。展覧会ではありますが、「私はこれが好き」と作品を身近に感じて見てもらい、ご自身の感性を育てていただけたらいいなと。自分の好きなものを選ぶために自分を知る、美しいものを見て感性を刺激することで、個性が磨かれていくと思います。いつまでも好奇心を忘れないで...!

リーン・ヴォートラン
《イヤリング“サーカスのメリーゴーランド”》
1945年頃 金色ブロンズ
個人蔵

2024年4月26日(金)〜6月30日(日)開催
コスチュームジュエリー 美の変革者たち
シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより
場所/愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
時間/10:00〜18:00
※金曜〜20:00(入館は閉館の各30分前まで)
休館日/毎週月曜日(ただし4月29日[月・祝]と5月6日[月・振休]は開館)、4月30日(火)、5月7日(火)
料金/一般1,800(1,600)円、高校・大学生1,200(1,000)円、中学生以下無料
※( )は前売券および20名以上の団体料金

展覧会公式サイトはこちら

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