世界の第一線で活躍する
プロダンサーの心身健康法

自身の体一つで舞台に立ち、観る人を別世界へと誘う圧倒的な存在感。
ダンサーは体の動きだけで言葉を超えたさまざまな感情やテーマを表現する。
そのために必要なのは高い身体能力と、顔の表情、
手足から指先やつま先まで気を配った繊細な体の動かし方。
幅広く活動を続ける中では、メンタルヘルスを含む体調管理とセルフメンテナンス、
さらに磨きをかける努力や根気も欠かせない。
良いパフォーマンスのための体づくりとは。
ダンスを巡る人々が垣根なく集える場「DaBY(デイビー)」でクリエイションを行うダンサーに聞いてみた。
撮影/海野俊明
※あくまでも個人の主観です。効果には個人差があります。
ご不安な点は、専門家へご相談ください。

酒井はな Hana Sakai

5歳からバレエを始め、畑佐俊明に師事。橘バレヱ学校、牧阿佐美バレヱ団に入団し、14歳でキューピット役に抜擢、18歳で主役デビュー。1997年新国立劇場バレエ団設立と同時に移籍、主役を務める。2017年紫綬褒章など受賞歴多数。新国立劇場バレエ団登録名誉ダンサー。洗足学園音楽大学バレエコース客員教授。DaBYゲストアーティスト。

「日常生活がエクササイズと考え、
隙間の時間を大事にすると楽しいです」。

小さな意識の積み重ねが
大きな変化につながる

「魂も精神も肉体もすべて健康でハッピーであるように」とは、若いダンサーたちへの指導でもいつも伝えています。そうじゃないと、良いパフォーマンスができないじゃないですか。私自身の若いときは自分を追い込むのが好きでしたが、最近はそうじゃない気がして。もちろん若いときはそれも大事だし、ストイックに励んだから今言えるのかもしれないですけど、日常生活の可能性に気づいたんです。

電車では内ももの筋肉を寄せて座ってみよう、つり革を持つときは少し脇を締めよう、待ち時間はルルベ(つま先立ち)をしてみようとか。自宅でテレビを見ながらエアロバイクを漕いで筋力アップも。理想は30分以上、時間がないときは10分だけでもやります。手を使わずに椅子から立ち上がるとスクワットになりますよ。体って、少しずつ改善していくと結構変わるから。人間の体にとって自然な普段の動きの中で、上手にエクササイズを取り込むように工夫しています。

FOOD&BEAUTY

無添加食品を取り入れています。食への関心や意識が高い友人に教えてもらったり、土づくりからこだわって育てた野菜を選んだり、健康や環境との向き合い方に共感できる会社のものがいいなと、理念や取り組みをホームページやSNSでチェックしてから買うことも。そんな食生活を続けていると、以前より匂いや味の感覚が繊細に磨かれ、すごくシンプルになっている気がします。体の動きも余計なものがない感じですね。好きな食べ物のナッツも無添加で常備。サラダにもスープにも入れて、ごはんの間もリスのようにずっと食べています(笑)。

MENTAL CARE

アロマオイルが大好きで、ツアーや公演にも持参します。気分転換したいときにキャップを開けて、植物の香りをまとうようにしながら深呼吸。鼻から吸って、いい香りで満たされます。ラベンダーだけでもいいですし、「ディフェンド」というフランス語で「守る」を意味するブレンド精油も愛用中。まず体が健康だと、心も穏やかでいられるのかも。しんどいときや怪我していたら、ネガティブ思考やトゲトゲしい言葉遣いになっちゃったりしませんか。

BODY MAKE

エクササイズを毎日続けるのは苦にならないタイプですが、私がやっていることはすごく簡単なんです。足首、首、肩を回すとか。ダンサーだからという特殊なことは意外と少ないですね。体に「動くよ」の合図を送ってあげることがやっぱり大事。急にギュンギュン動かすと、体もきっと怒るんじゃないかな。硬い体で無理なストレッチをすると、体が逆らって余計に硬くなるかもしれない。そう考えて、まずは気持ちよくリラックスして始めます。

足を投げ出して座り、腹部を感じながら股関節を動かして両足をイン(内側)へ回します。


足の内側に数秒力を入れたら一気に解放。これを10回繰り返すと、股関節の可動域が広がります。

ハラサオリ Saori Hala

振付家、ダンサー、美術家。東京藝術大学デザイン科修士、ベルリン芸術大学舞踊科ソロパフォーマンス専攻修了。日本とドイツを拠点に活動中。デザイン理論に基づいたパフォーマンス作品の制作を通して、サイトスペシフィックな空間と時間における即物的身体の在り方を探究している。DaBYレジデンスアーティスト。

「人と比べない、人に合わせない
自分の特性を知ったら楽になりました」。

日独を行き来しながら
極私的スタイルを追求

自分の体の声を聞くことは大事にしています。昔はいわゆる安定した生活リズムを目指して頑張っていましたが、逆に自分の声が聞こえなくなっちゃうというか。案外私は極端に過ごす方が調子がいいと長年の勘でわかってきました。1日2食のうち、自宅でも出先でも「今、何を食べたいか」をほんの数分ですが真摯に考えます。日々の自分を満たしてあげることで、自然とバイオリズムの波ができている感じ。惰性で食べないことにもつながるので健康的ですし、太りにくくもなりました。

ベルリンの人たちは機能で食事を選ぶ印象。グルテンを避けるダンサーが多く、お米が人気でした。ベジタリアンやビーガン、宗教など一人ひとり食事のスタンスがはっきりしていて、選択肢を楽しむ私の食生活に影響しているかもしれません。

メンテナンスの面ではパンデミックも転機に。健康管理アプリを使って摂取するべきor摂取した栄養素が数値でわかるようになると、ゲーム性が高まっておすすめです。

FOOD

食べる時期と食べない時期のギャップは結構激しいです(笑)。本番前やアーティストとして孤独な時間を守るときは食欲が減る傾向。いろいろなところに出向いたり、仕事上のコミュニケーションを増やしたいオープンな自分のときは、いっぱい食べて、回転して、人ともたくさん話して...とリンクしています。普段は玄米、そば、納豆、豆腐をほぼ毎日。昼は炭水化物、夜はタンパク質という風に決めて摂取します。チートデイはまったく別ですね。
※ダイエット期間における食べ物を(自由に) 普段よりたくさん食べる特別な日

BEAUTY

スキンケアはなるべくしない。単純に肌が弱いので化粧しないことは元々決めていたんですけど、 私の場合は、表面的にどんどん足していくより引いていく方が調子がいいって、20代半ばくらいでわかってきました。最近はより触らないことに気をつけています。

MENTAL CARE

私が関わる作品は肉体を酷使するタイプではないので、公演後にクールダウンみたいなことはしませんが、デジタルデトックスはすごく意識しています。仕事のピークを過ぎたら、スマートフォンと距離を置く生活を定期的に。理想は1週間ですが1日だけでも、あまりに忙しいときは2〜3時間でもOK。手ぶらで公園などに出かける時間を作り、惰性でいろいろ見てしまうことをやめて、良い状態に戻っていけるようにしています。

BODY MAKE

ヨガインストラクター資格も取得しているので、立ったままでも座ってでもできる上半身を部分的に整える方法をシェアします。呼吸に合わせてゆっくりとした動きで行ってください。

片手で肩、もう片方の手で頭を支えます。


肩と頭が一直線になるように倒し、首を伸ばして首こり解消。

顔の前に片手をストレートに置きます。


もう片方の腕をクロスして、手のひらを合わせるように合掌。


そのまま上に持ち上げると、肩甲骨のストレッチになります。

出演公演

「DaBY」との共同製作。酒井はなと岡田利規(演劇作家)が『ジゼル』を題材に創作・発表するほか、小暮香帆とハラサオリ、島地保武の新作も上演。

愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama(DaBY)
パフォーミングアーツ・セレクション2024
開催/2024年12月
場所/愛知県芸術劇場小ホール(愛知芸術文化センター地下1階)

詳細はこちら

記事の一覧に戻る

BACK NUMBERバックナンバー