REVIEW 美術館 幻の愛知県博物館
The Aichi Prefectural Museum That Might Have Been

遺されてきたモノが語るミュージアムと地域の歴史

美術館に行けば絵画を、自然史博物館では動物の剥製(はくせい)や植物の標本を、歴史博物館では古文書などを見ることができる。けれども、ミュージアムもそのコレクションも最初からそこにあったわけではなく、ある日突然できあがったわけでもない。本展覧会は、県立の総合博物館がないという愛知県において、それらの来し方と行く末を、さまざまな施設や人々が遺してきたモノによって語りあげるもの——いわば「図説」ならぬ「モノ説」・ミュージアムと地域の歴史である。

愛知県の美術館・博物館史を具現化したともいえる展示室には、錦絵や古写真、図案、絵画、絵葉書、古い文書や冊子、織物標本や陶磁器、さらには陶土の瓶入り標本(棚ごと!)まで、さまざまな種類と形態のモノが並ぶ。注目すべきは、その多くが商品陳列所や学校、研究機関などがかつて収集・公開した参考品や標本、あるいは活動の中で作成された刊行物であり、それらが当時とは異なる所有者に引き継がれていることだ。これらの施設は美術館や博物館とは呼ばれこそしないが、モノと人が集まる場として地域社会の中で重要な役割を果たし、美術や文化財という概念がそうであったように、日本に美術館や博物館が形作られる中で相互に関係してきた。本展はそのような存在にも目を向け、それらの活動を証言するモノを、官民公私、図書館や公文書館を含む各所から掘り起こし、具体的なコトとして示してみせたわけである。モノで語るがゆえに話題は存在するかしないかに縛られるが、本展に明治期の博物館を彷彿とさせる雰囲気を与えていた多種多様なモノたちは、ミュージアムに関わる施設や人々の知られざる活動を活き活きと語り、彼らの存在が決して幻ではなかったことを教える。

時には捉え所がなさそうに見えるモノも、拡大した複製やキャプションに添えられた小気味よい一言解説などによって、語りが引き出されていたことも特筆したい。モノを見せる工夫は、本展で紹介されていた過去の博覧会や博物館、展覧会における展示の様子を記録した絵図や写真にも見て取れる(それぞれの工夫を比べてみるのも楽しい)。モノと人をつなぐミュージアム——時代や分野、扱う対象はそれぞれでも、そこにはきっと通じる思いがあったに違いない。

REVIEWER 三宅拓也さん

京都工芸繊維大学デザイン・建築学系助教。近代の都市と建築、およびそれらの記録について研究している。著書に『近代日本〈陳列所〉研究』(2015)など。

幻の愛知県博物館
The Aichi Prefectural Museum That Might Have Been
2023年6月30日(金)~8月27日(日)
場所/愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)

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