魅力に迫る座談会
愛知県芸術劇場
コンサートホール編

クラシック音楽に最適な環境を完備し、30年以上にわたり愛されてきたコンサートホール。
全国でも類を見ない規模で中部地方の音楽シーンを盛り上げる地域のテレビ各局の主催者。
恒例の人気コンサートシリーズを企画する、その彼ら/彼女らにホールの魅力を聞いた。
撮影/竹内優(MAISONETTE)

Guest

世界各国からトップアーティストを迎え、最高の舞台を皆さまにお届け。写真左より、「スーパークラシックコンサート」(東海テレビ)の杉田朗さん・大園美也子さん、「名古屋国際音楽祭」(CBCテレビ)の二村久美子さん・森合康行さん、「名古屋クラシックフェスティバル」(中京テレビクリエイション)の上田真由美さん・北澤寛さん。2023年11月は世界三大オーケストラの集結も話題に。

心に残る思い出の公演

2023年度に「第46回名古屋国際音楽祭」「第44回名古屋クラシックフェスティバル」「第2回スーパークラシックコンサート」を開催。まずは歴史ある中での思い出をお聞きしたいです。

北澤 僕は35年ほどクラシック音楽事業に関わり、1992年の愛知県芸術劇場の開館時から利用させていただいています。中でも印象的だったのが、エディタ・グルベローヴァ、キャスリーン・バトル、ジェシー・ノーマンの「世紀の三大ソプラノシリーズ」(99年)。終演時のスタンディングオベーションで、お客さまが舞台前に押し寄せたことを鮮烈に覚えています。

上田 私はそのジェシー・ノーマンの譜めくりをしていて、前の方からすすり泣きが聞こえました。イーヴォ・ポゴレリッチのピアノ・リサイタル(16年)は、譜めくりしながら感動で泣けて泣けて仕方がなかったです。あとは…思い出がいっぱいありすぎて選べませんね。

大園 上田さんは音楽事務所勤務時代に「スーパークラシックコンサート」の立ち上げの一員でした。私の思い出は13年の東海テレビ開局55周年記念でお招きした、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演です。杉田の勧めで両方を聴き比べたら、音色と音のパワーと響きがびっくりするほど違って、まさに目から鱗。あれは私の人生の中で大きな転換期です。

二村 担当になる前から劇場に通い、優劣をつけるとなると迷いますが、主催公演「鈴木優人指揮 バッハ・コレギウム・ジャパン」の『マタイ受難曲』(21年)です。20年度はコロナ禍で全公演中止となり、再開後初の「名古屋国際音楽祭」でホールのお客さまが一つになって感動。音楽って素晴らしいと心から思いました。

個人的にお気に入りの席と楽しみ方

広いホールにはさまざまな座席がありますが、皆さまのおすすめは。

大園 3階3〜4列目の中央あたりは見晴らしも音もとても良く、落ち着いて聴いていただけます。

二村 私もその席がおすすめで、指揮者の延長線上ですよね。お値段も比較的お買い求めやすいのと、オーケストラの皆さんの動きが上から全部見える席は最高です。

上田 管楽器もバランス良く聴こえるので、オーケストラの場合は3階席。ピアノは「指が見たいから左側」 と望まれる声が多いですが、音が跳ね返る右側もおすすめします。

森合 私は皆さんより経験が浅いため、最前列が一番だと先入観があった一人です。23年8月に若手ピアニストの亀井聖矢さんを少し離れたところで観て、「いい席は他にもあるのか!」と納得。手の高さ、鍵盤の右から左へ滑らかに動く指使いに見入ってしまいました。

杉田 各地のホールで聴いてきてますが、このホールの音響は素晴らしくどの席でも良いですよ。オーケストラ公演の舞台横のバルコニーサイドは、演奏者の皆さんのいろいろな発見があって面白いです。

大園 オルガン側のP席は目の前がステージで、今観ておきたい重鎮マエストロや天才アーティストの公演はお得感があります。

上田 P席は、開館当初は「他の観客から見られて恥ずかしい」と言われることもありましたが、最近はご希望が増えてきました。正面側からは絶対見えませんが、指揮者がメンバーにこそっとピースしていたことも(笑)。

二村 私も好きな指揮者をP席で何度か見ました。指示の出し方も十人十色で大変興味深いです。

北澤 見る楽しみ、ですね。

大園 ホールの壁の凹凸や装飾は音響のために考え尽くされているので、隅々まで注目!

コンサートホール+αで好きなこと

ホールを見る楽しみ、ホールに行く楽しみもありますよね。

北澤 ホール自体が非常に清潔。いい緊張感があり、「劇場に来た」と実感できるのはやっぱり最も魅力的な点じゃないですか。

森合 そうですよね。普段からこのような場所を訪れることはなかなかないですし、特別な空間で千人以上もの人が同じ時間を味わえます。拍手する瞬間は言葉が通じなくても、それを超えた共通言語のような表現でお客さまと演奏者が一つになり、客観的に見ていてすごくいいなと思います。

北澤 演奏が終わり、オーケストラが完全に聴衆を圧倒して、一瞬の間をおいて一斉にわっと拍手が沸き起こるとか、劇場という場所で生まれる瞬間がありますよね。

舞台裏でやり甲斐を感じるときは。

二村 皆さまが幸せな顔でホールから出て来られる雰囲気が大好きです。若い演奏家と一緒に仕事をさせてもらうことが最近多く、楽屋口にお子さまが列を作って待っているのもいいなって思いますね。

上田 終演後は、私もなるべくお見送りしたいです。余韻が続くお客さまが「ありがとう」や「良かったです」と、話しかけてくださるんですよ。

杉田 アンケートにいろいろな意見をいただきますが、人気のコンサートではたくさんの方が再演を熱望されます。

二村 文面から熱意が伝わってきますよね。

上田 ここに来たら、すべてがお客さまの思い出になります。レセプショニストに迎えられ、客席に座り、会場を出るまでさまざまな人と出会ってその日を過ごされるので、私たちも心してやらなきゃいけないといつも思っています。

森合 僕の知り合いには、初任給で親の結婚記念日にコンサートに招待したという若者もいました。「二人の記憶に残る時間を共有してもらいたい」と思いを込めていたそうで、チケットは人を喜ばせるギフトにもなるのだと。チケットにはそれぞれの思いが詰まってますよね。

大園 開演前や休憩中に営業するビュッフェ[※1]もぜひ。夜景も素敵ですし、各ホールでメニューが異なるので、遠方からいらっしゃる方は旅のお目当ての一つに。地元の方も時間にゆとりを持ってお越しいただいて。1階のアートライブラリーや愛知県美術館などの展示も合わせて立ち寄っていただくと、複合施設の楽しみがあります。地下2階のアートプラザで、ポスターやチラシをご覧になるのもワクワクしますよ。
※1 営業の有無は公演による

これからの公演に期待すること

より良い公演のための取り組みや、今後の展望についてお聞かせください。

大園 CBCさんが始められた名古屋時間があるんですよ。夜の開演は全国的には19時だけど、名古屋だけ18時45分が主流で。

北澤 それ以前は18時半だったんですよ、ずっと。仕事終わりに間に合わない方もいまして時間を調整。

二村 東海3県のほか、東京や大阪から来てくださる方々もいらっしゃるので、お帰りのことも配慮したと聞いています。

大園 このホールは名古屋駅までのアクセスが便利で各地からお集まりになります。もっと東京方面に向けても発信しなきゃいけないんじゃないかなって思うくらいなんですよね。

二村 日帰りできる距離ですものね。

大園 主催者としてありがたいのが、劇場運営の支配人に開演前から終演後までの毎公演を見守っていただいていることです。

北澤 劇場も自主事業がありますよね。僕らが場所を借りるときも、同じ立場になって話を聞いてくださるので助かります。

大園 準備中も相談しやすく、知恵や工夫をいただきながら我々は当日を迎えることができて感謝しています。

北澤 民放各局が海外招聘公演などを競い合うように盛んに行っているのは、全国的にも他地域ではあまり見られません。劇場と連携し、お互いに磨き合っていきましょう。

座談会は出演者が待機するオーケストラホワイエで実施。一堂に掲示された公演チラシを眺めて思い出話が弾むシーンも。

劇場を訪れたことのないお客さまへ

主催者としてはもちろん、クラシック音楽に親しむ人としても経験豊かなお話をいただき、新しい気づきが多くありました。最後にメッセージを。

森合 劇場では静寂から1音目が始まる独特な世界観や、ドームなどのライブとは違う感覚に出会えます。いろいろな楽しみの一つとして足を運んでいただきたいですね。

北澤 そのときは特別な空間で、価値ある公演の適度な緊張感も楽しもうという気持ちが大事。

上田 大事ですね。もし劇場でのマナーや拍手のタイミングがわからなかったら、周りを見て合わせていただければ大丈夫です。

二村 舞台は演奏者とお客さまが一緒になって作るもの。それが感動につながっていくことを体験していただきたいです。まずは気軽に来るところから始められて、自分が楽しめる場所にしてもらえたらうれしいです。その際に曲や時代背景、演奏者などについて予習をしてから聴くと、より深く味わえますよ。

皆さま、コンサートホールの魅力をたっぷり語っていただきまして、ありがとうございました。

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