【オペラの魅力】ENJOY OPERA 2023

オペラとは日本語で歌劇と訳されるとおり、歌を中心に物語が進行する。
舞台装置や衣裳、踊り、オーケストラの演奏が集結したまさに総合芸術。
オペラ好きもこれからトライしたい方も楽しめる多彩な世界へようこそ。

全国共同制作オペラ
宝塚歌劇団退団後、初の舞台演出 演出家・上田久美子インタビュー

全国の劇場・芸術団体が新演出で制作する「全国共同制作オペラ」に初参画。
2010年あいちトリエンナーレでも喝采を浴びた指揮者アッシャー・フィッシュとともに、
名作オペラの新境地を開く上田久美子に独自の演出について聞いた。
聞き手/岸純信(オペラ研究家) 撮影/前田真

上田久美子 Kumiko Ueda

戯曲家、演出家。京都大学文学部フランス語学フランス文学科卒業。一般企業勤務を経て、演出助手として宝塚歌劇団入団。『星逢一夜』(2015年宝塚歌劇団雪組)で第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。オリジナル脚本による質の高い話題作を連発。22年、新しく幅広い表現を求めて宝塚歌劇団を退団、フリーランスに。

「劇場は社会の“圧”を解き放つ
舞台を観て“違う価値観”を知る」

東洋と西洋で文化に対する姿勢が異なると気づいて

「昔から伝統芸能に興味を抱いていました。西洋は“人間中心主義”でも、日本は“個の意識がかなり低い”のが主流ですね。ルネサンス以降、欧米の芸術家は、先人をいかに乗り越えようかと考え、影響を排し、オリジナルのものを創り出そうとしてきました。でも、日本では歌舞伎俳優が『●●のお兄さんから教わった型で演じます』と口にし、茶道でも『利休さんの型が今も残っています』と先生方はおっしゃいます。そこに私は、日本人の“個の意識の薄さ”を感じます。日本の伝統文化に携わる人々は、総じて、芸術家よりは継承者かな、と」。

原形を保つ日本と革新を求める西洋を融合

「でも、私は逆に、そのことを面白く思うのです。伝統芸能も茶道も改変しつつも原型を保って存続しています。数百年前の西洋のダンスの動き方は今はわからないでしょうが、お能やお茶なら数百年前の動きもテンポも体感できるのが稀有だと思います。日本の伝統芸能を、西洋のオペラに取り入れたらどんな風になるかと思い、演出をやらせていただくことにしました」。

『道化師』『田舎騎士道』世紀末のオペラ2作と現代

「今回は、世紀末イタリアの短いオペラを2作取り上げます。先にレオンカヴァッロの『道化師』(1892)を、続いてマスカーニの『カヴァレリア・ルスティカーナ』(1890)を『田舎騎士道』と題して、愛知県芸術劇場と東京芸術劇場で公演します。個の主張より継承を重んじる日本ではオーソドックスな演出が好まれるようですが、愛知がオペラハウスであるところ、東京は緞帳(どんちょう)やオペラカーテンのないコンサートホールですので、昔ながらのステージはできません。そこで、西洋的な芸術観のもと“新しいもの”を創るべく、文楽にヒントを得て、歌手とダンサーの二人で一つのキャラクターを作るという実験的手法を思い付きました」

我々があえて目を向けない“社会の閉塞感”を描く

「この2作はヴェリズモ(真実主義)のオペラですね。自然主義が勃興した欧州で、貴族社会や神話ではなく、庶民の生活を表現すべく生まれた潮流であり、それが当時はかなりショッキングであったようです。『オペラも貧しさを描くんだ』と。それで、今回は設定をイタリアの田舎から関西の町の路地裏に変え、人物の名も日本風にしました。イタリア語の歌詞はそのままですが、役名が、『田舎騎士道』のサントゥッツァなら[聖子]です。面子を潰された男たちが決闘する『田舎騎士道』のドラマは、深夜のコンビニの前でずっとたむろしている若者が主人公でもおかしくないでしょう?ある意味、逃げ場のない、閉塞的な社会で生き続ける、もしくは、そこでないと生きられない人々の話かなと」。

外に出れば違う世界がある。でも現状にしがみつく人々

「『田舎騎士道』では現実感が切ないです。サントゥッツァ[聖子]が、自分を好きと言ってくれたトゥリッドゥ[護男]にあれほど執着するのも、コミュニティの中で居場所を見つけられず、孤独への恐怖を恋愛依存で癒したいからなのでしょう。人間の性を見るようです。道化役者が年若い妻を舞台で刺し殺す『道化師』も、紐解けば依存する人間の物語。道化役者カニオ[加美男]が若い妻ネッダ[寧々]にしがみつくのは、支配的な関係性とは裏腹の、依存心の表れですね。『道化師』は大衆演劇の世界に置き換えますが、ある座長さん夫妻に取材したら『随分前、大衆演劇界でも似た話があった。奥さんは斬られても痛みに耐えて舞台を務め、警察沙汰にもせなんだ』と教わりました(笑)。ちなみに、小さな社会で生き続ける人々の群像は、『田舎騎士道』だと『みんなで教会に行こう!』、『道化師』なら『皆で芝居を観よう!』と一丸となって歌うシーンに象徴されますが、私の眼にはそれが“孤独を癒す共同体の在り方”に見えてしょうがないのです。知人に『こういう場面、関西圏の感覚だとどんな感じかな』と尋ねてみたら、『そうやな。阪神の試合をみなで観に行こか、かな?』と言われ、納得しました(笑)。私も関西の出身なので」。

物語は時空を超えて伝わり、現実の“圧”を解き放つ

「育った土地が古代史と繋がる奈良の史跡エリアでして、畑を掘れば埴輪(はにわ)が出て大変なことになったりね(笑)。でも、大学を卒業し東京で働くと、余りに息苦しい実社会に直面して、それから離れようと劇場に通い始めました。イスラエルの劇団が、現地の戦禍の模様を抽象的に、訳のわからない言葉で見せてくれたりすると『自分の見ている狭い世界の外にも世界が存在する』と実感でき、同時に普遍的な事象に気づいたりもして。その後、宝塚歌劇団に入り、舞台作りを手掛けましたが、これからはフリーの立場で新しいステージを作りたいです。現実社会の“圧”を解き放ってくれる、狭い視野を俯瞰に変えてくれるのが劇場です。イタリアの片田舎の昔の話も、現代人の日常のどこかと通じ合います。それに気づかれた皆さまが、新しい視点から今生きている世界を眺めてくだされば嬉しいです!」。

指揮
アッシャー・フィッシュ Asher Fisch

バレンボイムのアシスタントからキャリアを始め、1995年ベルリン国立歌劇場副指揮者に就任。以来、ウィーン・フォルクスオーパー音楽監督、ニュー・イスラエル・オペラ音楽監督、シアトル・オペラ首席客演指揮者などを歴任。日本国内でも2010年あいちトリエンナーレ『ホフマン物語』など数々の舞台で高い評価を得ている。

カニオ[加美男]&トゥリッドゥ[護男]
アントネッロ・パロンビ Antonello Palombi

カニオ[加美男]
三井聡 Satoshi Mitsui

トゥリッドゥ[護男]
柳本雅寛 Masahiro Yanagimoto

ネッダ[寧々]
柴田紗貴子 Sakiko Shibata

ネッダ[寧々]
蘭乃はな Hana Ranno

サントゥッツァ[聖子]
テレサ・ロマーノ Teresa Romano

サントゥッツァ[聖子]
三東瑠璃 Ruri Mitoh

愛知県芸術劇場プロデューサー 水野学

オペラですべての役にダンサーがつくのは、とても珍しいこと。閉塞感を描いた本作品は、一人ひとりが孤独だという今の世の中を映し出しているように見えるかもしれません。

2023年3月3日(金)・5日(日)開催
全国共同制作オペラ レオンカヴァッロ:歌劇『道化師』
&マスカーニ:歌劇『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』
新演出/イタリア語上演、日本語・英語字幕付き
場所/愛知県芸術劇場大ホール(愛知芸術文化センター2階)
時間/3日(金)18:00〜、5日(日)14:00〜(公演時間は約3時間、休憩あり)
料金/S席10,000円、A席8,000円、B席6,000円、【U25】3,000円、
C席4,000円、【U25】2,000円、D席3,000円、【U25】1,500円、
プレミアムシート14,000円
※【U25】は公演日に25歳以下対象(要証明書)。
※10〜19歳の方を対象に、ジューダイ・シートを公演直前に数量限定で販売予定です。
※未就学のお子さまは入場できません。5日(日)のみ託児サービスあり(有料・要予約)。

詳しくはこちら

■視覚に障がいがあるお客さまへ
当日会場に点訳パンフレットをご用意しております。事前にパンフレットのデータをEメールでお送りできます。

■聴覚に障がいがあるお客さまへ
日本語・英語による字幕を用意しています。




記事の一覧に戻る

BACK NUMBERバックナンバー