AAF戯曲賞にゆかりのある2作品が登場
2022年秋冬の「ミニセレ」

愛知県芸術劇場のプロデューサーが、「小ホール」でいま観てほしい作品を多様なジャンルから選出する「ミニセレ」。
会場のライブ感とともに、新しい芸術との出会いが待っている。
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第20回AAF戯曲賞受賞記念公演『リンチ(戯曲)』
演出・振付・出演の余越保子インタビュー

「上演を前提とした戯曲賞」として、当劇場が2000年より開始した「AAF戯曲賞」。
「戯曲とは何か?」をコンセプトに、新しい価値観を作り出す戯曲賞の第20回受賞作品にダンサーが挑む。

『リンチ(戯曲)』の戯曲はこちら

余越保子 Yasuko Yokoshi

演出家、振付家、舞踊家。NY在住中(1987-2014)にベッシー賞(最優秀作品賞)を2度受賞。グッゲンハイムフェロー、ファンデーションフォーコンテンポラリーアートアワードなど、米国内での受賞多数。2015年にNYで発表された「ZERO ONE」はニューヨークタイムズ紙のダンス批評家が選ぶ年間ベストテンに掲げられた。

「戯曲とは何か?」を
ダンサーが身体化する脱・演劇

『リンチ(戯曲)』というセンセーショナルなタイトル通り、作者・羽鳥ヨダ嘉郎の筆圧が伝わるような文体で展開する本作は、読み手に終始ヒリヒリとした感覚や重い緊張感を与え続ける。戦時下や戦後の日本をテーマにする文献からの引用文や介護のシーンがたくさんコラージュされ、セリフを順に追ってもストーリーが難解な戯曲の上演にあたり、 独特な身体表現に着目。演出のオファーを受けた振付家・ダンサーの余越保子に、稽古中盤の7月に話を聞いた。

『リンチ(戯曲)』を読んだ印象は。

余越(以下、余 ) このタイトルだけあって突き離した文章で残酷な内容でもありますが、他者への愛を深いところで感じます。羽鳥さんは「そんなことはない」とおっしゃるかもしれませんが、目線の熱さやパッションがあるんだろうなと。ずっと毎日戯曲と対峙していると身体にそれが入ってくる感覚があるので、それは演者が通過したことで手に入れる体感や共有意識かもしれません。日々刻々とイメージが変わり、作品を固定するとその先から死んじゃう気がして、完成はよくわかりません。上演自体で何かを培養するみたいに考え、いかに変容し続け、身体や人間のありようを舞台に乗せられるかが課題です。自分のアイデアやプランを作品が大きく裏切る時がエキサイティング。作品に素直に向き合い、固定化しない毎回違う公演を目指します。

戯曲の舞踊化は1つの挑戦かと思いますが、これまでに経験はありますか。

余 コンテンポラリーダンスの中に発話があり、ダンサーがしゃべるのは珍しいことではありません。私自身、これまでも文学作品をもとに作ることはありましたが、“戯曲”という上演を目指した上での言葉で構成されたものを扱うのは初めてです。

稽古はどのように進んでいますか。

余 今回のコラボレーターは個性豊かな素晴らしいアーティストが集まり、私を含めた4人のキャストはみんながダンサー・振付家ということで、全員共同でクリエーションしています。私と演劇の方が戯曲を起こすときのプロセスの大きな違いは、最初に配役を決めないこと。ボディが4つあるところから考えています。羽鳥さんの言葉は身体を突き動かすものが多く、主語がなくてダンスの感覚と同じ。戯曲のどこの文章を取っても、いくらでも踊れる楽しさとワクワク感の宝庫です。例えば、「鳥肌が立っていたらどんなにいいだろう。毛に運ばれることができるのだから」という一文。これだけで30分くらい踊れるんじゃないかという感じなんですけど、お客さまは戯曲を読んだり、演劇的体験を求めたりして劇場にお越しになるので、完全なダンス作品になるのも違うと思って... どういう風に『リンチ(戯曲)』の世界観を舞台上に立ち上げるのかがこれから始まる滞在制作の挑戦です。

観客に向けてメッセージを。

余 コロナ禍で、去年当たり前だったことが今年は全く違うと、パフォーミングアーツ界のアーティスト全員が痛いほど感じました。その中で作品を創って発表し、変化し進化し続けることにリアリティがあります。「良い上演とは」を、もう一度立ち返って考えさせられている時代。観客の皆さまとともにそれを共有して考える時間にしたい。公演の機会をいただいたことに心から感謝します。

「ジャズミュージシャンのセッションのような、ダンサー一人ひとりが身体の密度で奏でるエネルギーで作り上げる作品。毎回違う公演になりそうです」 余越保子

本戯曲の直球的なテーマ「日本人とは何か」を表現するキャストとして最初に抜擢されたトーゴ出身のアラン・シナンジャ、即興トーキングダンスを得意とし多数のアーティスト作品に参加する垣尾優、「身体感覚の拡張」をモチーフに作品を制作する最年少の小松菜々子に、余越保子を加えた4名のダンサー・振付家が出演。



愛知県芸術劇場プロデューサー 山本麦子

「AAF戯曲賞」は戯曲の可能性を信じて、「この戯曲でどこまで飛躍できるのか」という実験の場でもあります。国際芸術祭「あいち2022」 でパフォーミングアーツに興味を持った方もぜひ。

2022年11月4日(金)〜6日(日)開催
第20回AAF戯曲賞受賞記念公演『リンチ(戯曲)』
場所/愛知県芸術劇場小ホール(愛知芸術文化センター地下1階)
時間/各日17:00~
料金/一般3,000円、【U25】1,000円ほか
チケットは10月7日(金)より販売いたします。
※【U25】は公演日に25歳以下対象(要証明書)。
※未就学のお子さまは入場できません。 5日(土)のみ託児サービスあり(有料・要予約)。

詳しくはこちら

11月3日(木・祝)はゲネプロに高校生を招待。

11月5日(土)のみ

第16回AAF戯曲賞受賞作家の話題作がミニセレに登場!

音と体のボーダーを探る
実験的クリエイションに挑戦

2021年10月、東京で上演し、第66回岸田國士戯曲賞ノミネート作品となった話題作『ぼんやりブルース』がミニセレに登場。同年4月にサウンドアーティスト細井美裕と共作した『波のような人』で、マルチチャンネルスピーカーを使った作品に挑戦した額田大志が新たな一歩を踏み出した本作では、セリフの独特なリズム、空間を生かして上から下から大小の音が立体的に聴こえる鑑賞の面白さを小ホールで存分に体験したい。

額田大志 Masashi Nukata

1992年東京都出身。作曲家、演出家。東京藝術大学在学中の2013年バンド「東京塩麹」、16年ヌトミックを結成。『それからの街』で第16回AAF戯曲賞大賞を受賞。

愛知県芸術劇場プロデューサー 山本麦子

東京の今の若者をリアルに表現。 部屋の中で誰ともつながれないけど誰かとつながりたい、ある意味普遍的なテーマの「私はここにいる」という焦燥感をうまく融合していて、コロナ禍だからこそ共感できる部分があると思います。

2022年12月2日(金)・3日(土)開催
ヌトミック『ぼんやりブルース』2022
場所/愛知県芸術劇場小ホール(愛知芸術文化センター地下1階)
時間/2日(金)19:30~、3日(土)11:30~/15:00~
料金/一般3,000円、【U25】2,500円、高校生以下1,000円
チケットは10月21日(金)より販売いたします
※【U25】は公演日に25歳以下対象(要証明書)。
※未就学のお子さまは入場できません。 3日(土)15:00のみ託児サービスあり(有料・要予約)。
※国内ツアー公演あり(豊岡)

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