ジュアン・ミロ 《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》 1917年 油彩・コラージュ、キャンバス ニューヨーク近代美術館 © The Museum of Modern Art, New York. Florene May Schoenborn Bequest, 1996 / Licensed by Art Resource, NY © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E4304

ミロと日本の知られざる関係に迫る!
世界初の大規模展「ミロ展―日本を夢みて」

スペイン・バルセロナで生まれた偉大な芸術家、ミロ。
過去に行なわれた展覧会でもミロの“日本好き”は注目されてきたが、今回はより深くまでミロと日本の関係を紐解いてゆく。
作品のみならずミロ旧蔵の民芸品なども加えた、約140点からなる展示の中から、見どころを紹介する。

日本文化に影響を受けた
ミロの最新情報が目白押し!

 子どもが描くような大胆なタッチとカラーで知られる芸術家ジュアン・ミロ(1893-1983年)は、ピカソと並ぶ現代スペインの巨匠として、日本では早くから人気を集めてきた。1888年にバルセロナで開かれた万国博覧会に始まるジャポニスム・ブーム真っ只中に生まれたミロは、生家の近くにも日本美術の輸入販売店があり、初の個展を開いた画廊でも日本美術の展覧会がたびたび開催されるといった環境で育ち、早くから日本文化への憧れや興味を抱くようになる。例えば、背景に浮世絵をコラージュした親友の肖像画《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》(A)や、スペインを代表する陶芸家で日本のやきものにも造詣が深いジュゼップ・リュレンス・イ・アルティガスと共作した《花瓶》(B)、9mにも及ぶ横長の絹を染めた描いた《マキモノ》(C)などからわかるように、日本文化を取り入れた作品も多い。しかし、今までは、誰から影響を受けたのか、何故興味を持ったのかなど、パーソナルな部分まで触れられることは少なかった。今回の展覧会では、日本への憧れを象徴する初期作品から代表作、日本で初めて展示された絵画作品《焼けた森の中の人物たちによる構成》(D)、ミロのアトリエにあった日本の民芸品や、美術評論家・瀧口修造との交流を示す多彩な資料などを通して、ミロと日本の関係をより深い部分まで紐解いてゆく。

ジュゼップ・リュレンス・イ・アルティガス、 ジュアン・ミロ 《花瓶》 1946年 炻器 個人蔵 © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E4304

ジュアン・ミロ 《マキモノ》 1956年 捺染、絹 町田市立国際版画美術館 © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E4304

ジュアン・ミロ 《焼けた森の中の人物たちによる構成》 1931年 油彩、キャンバス ジュアン・ミロ財団、バルセロナ © Fundació Joan Miró, Barcelona © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E4304

2度の来日で日本中を巡り
信楽や瀬戸の窯元も見学

 ミロが来日したのは、国立近代美術館で大きな展覧会を行なった1966年と、大阪万博の準備のために訪れた69年の2回。その際、京都の寺院や奈良の大仏などの観光名所はもちろんのこと、来日前から日本文化に影響を受けてきたミロは、自ら行きたい場所をリクエストし、各地に足を運んでいたことが、最近の研究で判明した。初来日の際は2週間ほど滞在し、40年に世界初となるミロのモノグラフを発表した瀧口修造と26年の時を経てようやく対面した他、作家の佐野繁次郎、勅使河原蒼風、岡本太郎らと交流し、44年から興味を持ち始めたやきものを知るため、アルティガスと共に、信楽や瀬戸の窯元を訪ねている。こうして知見を深め、来日後に描いた《絵画》(E)は、書の滲みや跳ねの動きを感じる黒く太い線が多用され、明らかに前衛書道の影響を受けている。このように、若い頃から日本に魅了されたミロと、世界に先駆けてミロの魅力を見出した日本との関係は、ミロの2度の来日により確実に深まった。そのことは本展の数々の展示品から感じとることができる。

ジュアン・ミロ 《絵画》 1966年 油彩・アクリル・木炭、キャンバス ピラール&ジュアン・ミロ財団、マジョルカ Fundació Pilar i Joan Miró a Mallorca Photographic Archive © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E4304

実は子どもの落書きではない
緻密な構想から生まれた作品

 1920年代に起きた前衛芸術運動、シュルレアリスム(超現実主義)の画家として知られるミロだが、シュルレアリスムの創始者アンドレ・ブルトンからは「知性からほど遠い画家」とまで言われている。同じシュルレアリストのダリやマグリットとは異なり、自由奔放に描いた“子どもの落書き”や抽象画のように見えるからだ。しかし、70年代にミロがバルセロナのジュアン・ミロ財団に自身のスケッチブックを寄贈したことで、念入りな構想のうえで描かれていたことが分かった。また、本展覧会の企画担当学芸員・副田は「ミロの根底には常に故郷スペイン・カタルーニャの田舎の風景や生き物を表現したいという思いがあり、そういう意味では非常に具象的」と考察。そんなミロの実験的な試みがよく分かる作品として注目したいのが、《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》(F)などの、「絵を描くこと」と「文字を書くこと」を同じように捉え、“絵画と文字の融合”を追求した作品で、細い線と書のように太い線が混ざっている。もう1点、大きな目玉としては、絵画と文字による表現の代表作《絵画(カタツムリ、女、花、星)》(G)が56年ぶりに来日すること。線と絵が重なる部分で色が変わり、絵と文字を同じ空間に置くことで文字に立体感を生んでいる点などに注目したい。カタツムリ(escargot)、女(femme)、花(fleur)、星(étoile)の4つのフランス語と絵が織りなす複雑な奥行きを、ぜひ間近で見てほしい。

ジュアン・ミロ 《ゴシック聖堂でオルガン演奏を聞いている踊り子》 1945年 油彩、キャンバス 福岡市美術館 © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E4304

ジュアン・ミロ  《絵画(カタツムリ、女、花、星)》 1934年 油彩、キャンバス 国立ソフィア王妃芸術センター、マドリード Photographic Archives Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofia, Madrid © Successió Miró / ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 E430

ミロの作品だけではなく
コレクションにも注目を

 本展覧会では、ミロの多彩な作品はもちろんのこと、ミロが愛したモンロッチのアトリエや、晩年を過ごしたマジョルカ島のアトリエに飾られていた“ミロ・コレクション”も来日する。例えばカタルーニャ地方でよく見かけるひょうたんは、ミロが友情の証として瀧口修造に贈ったもの。他にも友人から贈られた日本の民芸品や拓本、来日時にミロ自身が購入したものなど、アトリエに飾られていた日本の品々がまとまって“里帰り”を果たすのだ。
ミロが追求して生み出したもの、ミロの周りを取り囲んでいた日本との繋がりを証明するもの。そのどちらも目にすることで、ミロという人物をより深く知ることができるはず。

\こんな展示物にも注目!/

《佐賀杵島山一刀彫のカチカチ車》 1966年以前 木 ピラール&ジュアン・ミロ財団、マジョルカ Fundació Pilar i Joan Miró a Mallorca Photographic Archive

ミロが瀧口に贈ったひょうたん。《ジュアン・ミロからの贈物(ミロのカラバサ)》1976年贈呈、富山県美術館

《讃岐高松の鯛狆》 20世紀 張子 ピラール&ジュアン・ミロ財団、マジョルカ Fundació Pilar i Joan Miró a Mallorca Photographic Archive

2022年4月29日(金・祝)~7月3日(日)開催
ミロ展―日本を夢みて
場所/愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
時間/10:00~18:00※金曜は20:00まで(入館は閉館30分前まで)
休館日/毎週月曜日
料金/一般1,800(1,600)円、高大生1,200(1,000円)、中学生以下無料
※( )内は前売券および20名以上の団体料金
※国際芸術祭「あいち2022」とのお得なセット券も。
詳しくは展覧会公式ウェブサイト


スライドトーク(学芸員による展示説明会)
学芸員による作品解説を行います。
日時/2022年5月14日(土)、5月29日(日)、6月18日(土)各回11:00~11:40
   6月10日(金)18:30~19:10
会場/アートスペースA(愛知芸術文化センター12階)
定員/各回先着90名(申込不要)
料金/無料

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