REVIEW 美術館「曽我蕭白 奇想ここに極まれり」/劇場「ファミリー・プログラム2021 芸術監督 勅使川原三郎 演出・振付 ダンス『風の又三郎』」

愛知芸術文化センターで過去に行なわれた展覧会や公演などを振り返る「REVIEW」。観た人も観逃した人もコチラをチェック!

美術館 奇想のその先へ

曽我蕭白 奇想ここに極まれり
2021年10月8日(金)~11月21日(日)
場所/愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
詳しくはこちら

 人目を驚かす派手な色彩、醜怪とも言える並外れた人物表現。近年人気を集める「奇想」の画家・曾我蕭白のイメージを形作ったと言ってもよい「群仙図屏風」を先頭に本展は幕を開ける。蕭白画の魅力を冒頭から堪能できる明快な構成に、すぐさま蕭白の世界に引き込まれていった。 ところが歩を進めるうちに、外連味ある蕭白画とは異なった印象の作品に目が留まった。斎宮の旧家・永島家旧蔵の襖絵のうち山水図である。八面にわたる大画面をじっくり鑑賞すると、水墨画家として基本的な技量を備えていることが理解できた。余白を広大な水景に見立てながら、渓岸や島嶼をバランス良く配置する。水墨がもたらす滑らかな階調は、山々の重なりや砂洲の広がりを的確に表現し、画面に豊かな奥行きをもたらしている。総じて均衡と調和が保たれた温和な山水図であった。もちろん水墨画家としての魅力は、過去の展覧会でも取り上げられてきた。しかし、時系列に束縛されない前述の構成によって、その側面が強く印象付けられたのだ。 水墨表現に着目できたのは、照明も関係しているかもしれない。画面を均質に照らす通常の照明では、水墨画の淡い墨におけるわずかな階調の差が実感しづらい。本展の仮設ケースでは下部からのみ光が当てられ、明るさにムラがあることで、かえって水墨の生みだす陰影が目に飛び込んできたようだ。前述の山水図は壁ケース内の展示であったが、同じ旧永島家の襖絵「竹林七賢図」は仮設ケース内の展示であり、どんよりとした背景の墨がとりわけ印象深く感じられた。 辻惟雄氏による『奇想の系譜』で用いられた「奇想」は魅力的な言葉であるが、だからこそ著者の意図を離れて我々の思考を束縛する危険もある。自身が勝手に作り上げていた矮小な「奇想」イメージを広げて、その先を見せてくれる展覧会であった。

REVIEWER 横尾拓真さん

名古屋市博物館学芸員。特別展「画僧 月僊」などを担当。

劇場 束の間の体験が忘れられない記憶となる

ファミリー・プログラム2021
芸術監督 勅使川原三郎 演出・振付 ダンス『風の又三郎』
2021年7月24日(土)・25日(日)
場所/愛知県芸術劇場大ホール(愛知芸術文化センター2階)
詳しくはこちら

 愛知県芸術劇場芸術監督の勅使川原三郎が宮沢賢治の『風の又三郎』を題材に新作ダンスを発表した。これまでも勅使川原は『春と修羅』『銀河鉄道の夜』といった賢治作品を取り上げているが、今回は子どもも大人も楽しめるファミリー・プログラムの演目で、愛知をはじめ東海圏ゆかりの若手ダンサーたちと創作を共にしており、新鮮さが際立った。
 勅使川原といえば洗練されたシャープでスピード感のある振付を思い出すが、ダンス『風の又三郎』は原作冒頭の一節「どっどど どどうど どどうど どどう」に合わせて足を踏み鳴らすアンサンブルで始まり、土着的な空気にまず驚かされる。一方、子どもが笑った様子を表す振付はユーモラスかつキュート。勅使川原作品を観て「カワイイ」なんて思ったのは初めてだ。鑑賞した子どもたちもきっと、ダンス表現の豊かさに刺激を受けたはず。
 また、アーティスティック・コラボレーターとダンサーを兼任した佐東利穂子が原作の朗読でも活躍。それは場面の説明というより音楽のように舞台上に流れ、どこか幼い声質やフラットな語り口が物語によく合っていた。さらに佐東は、若手と二人一役で又三郎とおぼしきキャラクターを担当。主人公の少年「三郎」は転校初日から同級生に「又三郎」と呼ばれ、風の神の化身であることがほのめかされる。そんな又三郎の異界の者という側面を佐東は時に激しい動きで表し、人間界と対照を為した。
 なお、勅使川原は美術や照明のデザインも手掛け、不思議な校舎や自然の風景を光と影で表現。無国籍風の衣装にはなぜか懐かしさも覚えた。やがて、椅子の上に立った又三郎の美しいシルエットで終幕。その姿が本当に飛んで行ったようで、切なくもあり清々しくもあった。

REVIEWER 小島祐未子さん

表現活動の記事や書籍を執筆・編集。最近では美術家の上野茂都著『個展物語』に携わる。

記事の一覧に戻る

BACK NUMBERバックナンバー