2021年9月に公演を行なった「RESONATE(レゾネイト)」の稽古中の様子。

1965年に誕生。良質なダンスを発表しながら
継続して芸術と社会をつなぐ「スターダンサーズ・バレエ団」

アート・文化施設やモノづくりの現場にでかけてレポートする「おでかけAAC」。今号は日本発信のナショナルバレエの創造を目標に掲げ、地域や教育に向けた取り組みを続ける「スターダンサーズ・バレエ団」におでかけ。
聞き手/唐津絵理 撮影/海野俊明

スターダンサーズ・バレエ団スタジオ
東京都港区南青山2-22-4 秀和南青山レジデンス1F
https://www.sdballet.com/

さまざまな交流と経験を糧に
成長し続ける歴史あるバレエ団

2015年に発行した「スターダンサーズ・バレエ団」の歴史誌に掲載されている、
小山さんが5歳の時に出演した「私のピーターパン」(1969年公演)の記録。

 1965年にニューヨークから偉大な振付家、アントニー・チューダーを招き、国内のバレエ団で活躍していたスター級のダンサーのみで構成した公演の成功をきっかけに誕生した「スターダンサーズ・バレエ団」。現在、総監督兼常務理事を務める小山久美さんは、創業者・太刀川瑠璃子さんの姪で、5歳の時から当バレエ団のスクールに所属。当時は“太刀川の姪”という見られ方に反抗心もあったが、今ではこの環境を与えられたことに感謝するようになったという。
 「叔母は当時としてはグローバルな視点を持っていたので、古典の演目ばかりを上演する日本のバレエ団が多い中でモダンな創作バレエに打ち込み、77年には『緑のテーブル』という作品を日本で初めて上演しました。この作品を振り付けたクルト・ヨースと、振り付け指導のアンナ・マーカードとの出会いは、バレエ団創立のきっかけとなったチューダーの後押しもあり、実現しました。作品を上演する度にいろいろな方と交流し、そこから世界が広がることで、今日まで成長し続けてこられたと思います」
 第一線で活躍するさまざまな振付家との交流は、当バレエ団の作品レパートリーが増える機会となり、所属する振付家・ダンサーが成長するだけでなく、バレエそのものに対する考え方が変わったと小山さんは話す。中でも、元バーミンガム・ロイヤル・バレエ団芸術監督のピーター・ライトからは多大な影響を受けた。
 「ダンサーとして、振り付けを演じることしか考えてきませんでしたが、ピーターと一緒にいて、”プロダクション”という捉え方が芽生えました。バレエは踊りだけでなく、照明や演出など、さまざまな要素が関わって出来上がっていて、舞台美術の面でもスタッフが刺激を受けたことがあります。89年初演の「ジゼル」では、これまで白い布に絵を描くことしか知りませんでしたが、黒い布に絵を描きました。そうすることで情景に奥行きや深みが出るということを知ったのです」
 このようにバレエのプロダクションに注目することで、さらに創作活動が盛んとなり、95年には、今でも絶大な人気を誇るオリジナル作品『ドラゴンクエスト』が誕生。壮大な音楽とゲームの世界観さながらの迫力あるステージは、世界でも類を見ない“エンターテインメント・バレエ”と呼ばれ、バレエファンだけではなく、多くの人にバレエの魅力を伝えることとなった。

学校巡回公演を機に取り組んだ
リラックスパフォーマンス

外苑前駅すぐの場所にあるスタジオは、大きな窓から陽の光が入る明るい環境が特長。

 スターダンサーズ・バレエ団の活動の一つに、2008年から毎年行なう文化庁事業の学校巡回公演がある。日本全国の学校を周り、子どもたちにバレエを見せるという活動で、愛知県芸術劇場で来年上演する「リラックスパフォーマンス」に取り組むようになったきっかけでもあるという。
 「子どもたちが初めて見るバレエなのだから、絶対に面白いものにしなければという責任を感じました。演目のシンデレラは、ストーリーを授業時間の45分に合わせてまとめ、子どもたちが集中できる長さに凝縮して退屈しないようにしつつ、作品として成立させています。また、ワークショップの体験も含める事業なのですが、ダンサーが長い時間をかけて追い求めるテクニックを教えるより、踊ることの楽しさや、できることの喜びを伝えるように工夫しています。そんな中、訪問先に特別支援学校があり、バレエをどのように紹介すれば良いのか新たに考える必要がありました。バレエを障がいのある方にも楽しんでいただくためには?と、海外の事例を探し、現地の視察もしました。そこで出合ったのがリラックスパフォーマンスです。リラックスパフォーマンスは、自閉症やADHD、支えを必要とする人や劇場で鑑賞に不安がある人のために考案された公演の運営形態です。暗闇に恐怖心を持つ方のために照明を完全に暗くしないことや、上演中に客席とロビーの出入りを自由にすること、休憩エリアの設置など、みんなで一緒に鑑賞できるようにするための取り組みはさまざまです。このように一般の公演よりもリラックスして鑑賞できる会場の運営に興味を持ち、18年に富山県、滋賀県で初演しました。特別支援学校と連携し、生徒にも出演してもらうことで発表の場を与えられた子どもたちは喜びますし、わかりやすいストーリーの『迷子の青虫さん』は、自閉症の子どもがイキイキと観ていました。学校巡回公演もそうですが、学校の勉強とは異なる芸術の良さをこれからも伝え続けていきたいと思います」
 社会とのつながりを考えることで、バレエを社会で当たり前の存在として浸透させていきたいと話す小山さん。最後に、これから目指すものを聞いた。
 「自分の技量を考えると現状維持・継続が精いっぱいのところは正直ありますが、足元を固める活動と、冒険的なものも含め、新しい作品を生み出していくことをバランス良くやっていきたいです。『ドラゴンクエスト』もそうですが、世界のバレエ団に負けないレパートリーがあると自負しているので、1番の夢は、個人ではなく、プロダクションとして海外のレパートリーに入ること。日本で生まれたバレエを、バレエの本場であるヨーロッパやロシアのバレエ団が上演してくれたら…。そんな夢を持ち、これからも社会活動に取り組みながら作品を創っていきます」

公益財団法人「スターダンサーズ・バレエ団」総監督兼常務理事の小山久美さん(左)と、愛知県芸術劇場プロデューサーの唐津絵理(右)。

「RESONATE」の一つ「SEASON’s sky」の振付を行なう佐藤万里絵さん(右)。

スターダンサーズ・バレエ団
リラックスパフォーマンス
『白鳥の湖』(全1幕)&『迷子の青虫さん』

 多少の話し声や移動もOK、気軽に鑑賞できるリラックスパフォーマンス。最後まで飽きずに観られるよう通常全4幕3時間に及ぶ古典作品を、全1幕約45分に圧縮した『白鳥の湖』と、わかりやすいストーリーと親しみやすいキャラクターによる『迷子の青虫さん』を上演。

2022年2月23日(水・祝)開催
スターダンサーズ・バレエ団
リラックスパフォーマンス
『白鳥の湖』(全1幕)&『迷子の青虫さん』
場所/愛知県芸術劇場大ホール(愛知芸術文化センター2階)
時間/15:00~
料金/一般4,000円、高校生以下2,000円
※3歳以下のお子さまは入場できません。託児サービスあり(有料・要予約)。
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■聴覚に障がいのあるお客さまへ
聴覚支援システムとして「ヒアリングループ(磁器ループ)」が客席の一部で動作します。

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