モノトーン
−優れた画家は黒で夜の闇をあらわし、白で刀の輝きをあらわすことができる−
15世紀の建築家、レオン・バッティスタ・アルベルティがその著書「絵画論」の中で述べているように、黒と白という色は、闇や輝き、つまり明るさと大きな関係をもっています。
カラー印刷では、赤・黄・青を使ってほとんどすべての色が表現されています。実際の印刷では、この3色だけでなく黒インクも使われていますが、色を重ねるにしたがって明るさは減り、理論上は3色を等量に重ねると黒が生まれます。 舞台照明では、赤・緑・青紫のフィルターを使って色光を重ねることによって、ほとんどすべての色を作ることができます。インクとは逆に、光は重ねる程に明るさを増し、3色すべてが重なったところで白となります。
アリストテレスは、あらゆる色は闇と光、つまり黒と白によって生まれると考えました。レオナルド・ダ・ヴィンチは、この哲学者が黒と白を色として認めていないと憤慨し、画家としてもっとも重要な色の中に「闇の黒」と「光の白」とを挙げています。
黒による表現、つまりモノトーンがより重要な中国画の世界では、「黒と白」は「闇と光」というより「虚と実」つまり「あるもの」と「ないもの」です。水鳥の足が水をかいているのを描くだけで、描いていない水を見せてしまう。「計白当黒(白を計りて黒に当つ)」という言葉のように、どこを描くかあるいはどこを描かないかが重要であり、ないものを在るように見せることが極意というわけです。
様々な色彩が溢れるこの世界。そこから色をはぎ取って黒と白だけにした時、闇と光あるいは在るものとないものだけにした時、普段は見ることのできないものを見、感じないものを感じ取ることができるのかもしれません。
PHOTO/勅使川原三郎+KARAS
「火傷の季節」から(スパイラルホールにて撮影/南部辰雄)
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