対談「小ホールと演劇」新しい演劇空間の可能性
島津 愛知芸術文化センターには、コンサートホールは別にして、舞台芸術用には2500席と1900席に使い分けができる大ホール、地下に300席程度の小ホール、なおかつリハーサル室があります。ロケーションも良く、演劇にとって刺激的な場となっていくと思われますが、そこで今日は皆さんにこのホールの可能性、期待を伺いたいと思います。
内山 このホールには設計の段階から係わってきて、今は小ホールという名前ですが、当初は「実験小劇場」と言っていた。大ホールとともに、専門劇場のはしりになるのではないかという気持ちだったのです。絶えず新しい、何かチャレンジをしていけるような、そういう場にしていきたいという…。従来の演劇のやり方−エンドステージにして、左右の幕を降ろした状態−で使うのではなくて、もっと多角的に使ってもらうのが一番良いのではないか。例えば、今度、僕はチェーホフの芝居をやるんですが、100年も前の話で古典的なものですから、そのままやるつもりは全くない。従来やられてきたものってのはモデルがあるんだけど、そういうものとは何がしか違う、特に僕の仕事は舞台美術だから、視覚的な点で工夫しようと思っています。
島津 このホールには、ほぼ持ち込みがなくても良いと思う程の機材がある。今までとは仕込み方も違ってくるだろうし、その点では小ホールという一般的な呼び方はなじまない部分がある。私はオープニング演劇祭を企画していて、プロセニアム(額縁)芝居というのはこの空間ではあわないだろうと思うんです。それと壁面が全部真っ黒。今までと違った芝居作りをしなくてはいけない、むしろそれを狙った空間というわけですね。
岡部 劇団名俳は12月に「陽なたの干しぶどう」っていうアメリカの黒人劇をやります。俳優と観客と劇場というのが演劇の三大要素であると言われてきましたが、僕はお客がいる所が劇場であり、「どこでもやれるんだ」と思っています。だから、ステージを横から見るところ(客席)でももっと席数を増やして欲しかったくらいです。ヨーロッパでは、ステージが穴になっていて、お客が上の四方から見下ろすというスタイルもありますからね。お客に尻を向けてはいけないという理論があったけれど、「これは違うなあ」と思ってきた。こういうホールができると、どうせなら四方から見られる形でやってみたいという気がする。そういう点では色んな方法が試みられる。
佃 僕は最初に見た時には、棺桶みたいな(笑)…棺桶だったり、死体置き場だったり、真っ黒で、地下でひんやりしてて…僕はそうゆうのが好きなんで結構おもしろいなあって思った。舞台装置とか何にもなく、このままでやってと。ただ、あそこには声が要らないっていう気がする。例えば芝居よりも舞踏の方が生きるかもしれない。台詞じゃなく音楽があって、人間の体がそこにあるって感じのものが似合う。それがどう変わるか、うちは11月中旬の公演ですけど、色々な団体が何やら芝居を打つ、その積み重ねによって、劇場の空気がどうなるか興味がある。僕等も今度は初めて僕の本ではなく、作が外国作家で、男3人の芝居で、演出が竹内銃一郎さんということもあるし。
島津 今まで要求されてきた演技メソッドとは違いますよね、ある意味で俳優を素っ裸にする…。名演小劇場は芝居小屋の造りですが、この小ホールは新しい表現形式を求められる今までにない空間。非常に影響が出てくると思いますね。東京からきた俳優が、名古屋の俳優は正面切るって、非常にそれが目につくって言ってたんですが…。
内山 プロセニアム芝居はできるんだけれど、役者の背中が見えるという、裏も表もないよっていう、色んな使い方を試みて欲しい。イギリスの役者ローレンス・オリヴィエはナショナル・シアターを作る時に非常に文句を言ったといいます。彼は役者にとって後ろが見えるっていうのは倍以上のエネルギーが要るって言ったんです。客に背中が見えないように芝居をやってきたのが、いきなり横にも客がいるんですから…。それで彼自身が色々実験してセンターステージ構想に反対した。それ位変わるんですね、役者の気持ちってのは。
岡部 テレビ映画で浦山桐郎監督が「飢餓海峡」というのを撮った時に、刑事部屋のシーンで、普通なら一方を開けてそこへカメラを置くんですが、リハーサルの時それをしなかった。四面全部囲んだ部屋を作って役者に「さあやりましょう」って言うんです。僕なんか初めてだから困っちゃった。でも、とっても嬉しかったですよ。Aカメラがこっちで、Bカメラがこっちでってはじめから言われなかったから。カメラを意識しないで自由にできるんですから。これは円形劇場だなあって…(笑)。本来、舞台っていうのはそういうものだと思う。
内山 セノグラフィーなんて考え方。舞台全体が、役者もすべて、共通の同じ力でひとつのシーンを作り上げるっていう、昔からの、役者が主役だからあとのものはどうでもいいっていう考えではなく、舞台全部が共通の価値観をもっている、リアリズムって言うかそれをひとつ乗り越したものにしていこう、台詞が要らないっていう話が出ましたけど、言葉だけじゃなく視聴覚全部が立ち上がってきて高い水準で結びつく、そういうものを作れる場所ということを考えていたんです。そういう場になればいいと。自分でやっていくものはそういうものにしていこうと思っています。
佃 僕は、舞台がこちらで客席が向こうだろうが、客席が囲んでいようが関係ない。芝居っていうのは見せるものじゃなく、見られるものだと思う。ある部屋があって、それを覗いている、覗き見っていうのは非常におもしろい、飽きない。そういうことができればいいと思っている。客が舞台を覗き見している、勝手に舞台の上でやってるんだけどそれを覗いている。だから台詞も正面切ってしゃべらない。ある状況があって、その時間に、こんな男がいて、っていうことがはっきりしていればいい。岡部さんがおっしゃってた刑事部屋、完全に覗き見ですよね。そういう状況って一番おもしろいと思う。
島津 小ホール、大ホールともに今までにない空間であって、今までにない方法、姿勢が要求される。その意味で、お客の期待も非常に高いと言って良いでしょう。そういうチャレンジをしてみたいと思います。ぜひ期待をしていただきたいと思います。
(1992.9.19)
岡部雅郎(おかべ まさお)
1954年 NHK名古屋放送劇団入団
1965年 劇団名俳設立・代表
1989年 愛知県芸術文化選奨受賞
*開館記念事業「あいちの芸術家たち」シリーズには、伊藤敬演出、ローレン・ハンスベリー作「陽なたの干しぶどう」で参加。12月4日から公演。
島津秀雄(しまず ひでお〕
1983年 (株)名演会館代表取締役社長就任。演劇公演のプロデュースや企画を行う。
1988年 ニューウェーブシアターシリーズを企画、年に15本程の小劇場劇団を紹介。上記以外に名古屋演劇フェスティバルを始め、地元劇団や東京の劇団を企画・制作する。
*愛知芸術文化センター開館記念事業として、10月30日から2ヵ月にわたって行われるオープニング演劇祭のプロデューサー。
内山千吉(うちやま せんきち)
1955年 名古屋を中心に、舞台装置家として活動をはじめる。演出家としても活躍する。
1976年 名古屋市芸術奨励賞受賞
1984年 舞台芸術家に贈られる伊藤憙朔賞受賞 愛知芸術文化選奨受賞
*自ら演出・美術を担当する“93年のちのチェーホフ”「三人姉妹」を「あいちの芸術家たち」シリーズで上演。公演初日は平成5年1月21日。
佃 典彦(つくだ のりひこ)
1986年 大学卒業と同時に宮本晃、神谷尚吾らと共に「劇団B級遊撃隊」を結成。名古屋の演劇界若手代表として活躍する。
1987年 「審判〜ホロ苦きはキャラメルの味〜」で第3回名古屋市文化振興賞(戯曲部門)受賞。
*オープニング演劇祭の参加劇団である劇団B級遊撃隊の代表。
MODEX青春五月党「魚の祭」
●作=柳美里●演出=松本修
●10/30(金)19:00・31(土)19:00・11/1(日)14:00・19:00
●前売=3,000円/当日=3,300円
前作「向日葵の枢」で数々の話題を集めた柳美里の新作書き下ろしを、エンターテイメントな舞台を上演するモードの松本修が演出。「子供には見せたくない」(松本)芝居!
東京壱組「ブラジルのいとこ」
●作/出演=大谷亮介
●11/6(金)19:OO・7(土)14:OO・19:00・8(日)14:OO
●前売=3,OOO円/当日=3,500円
役者集団を標榜する東京壱組が名古屋初お目見え。座付作者大谷亮介の、ブラジルに移民していった叔父一家の来日をめぐる騒動記。日本の親戚たちはてんやわんや。
今井良実事務所プロデュース
「アンダーグラウンド」
●作=沖田騒児●演出=今井良実
●ll/12(木)19:OO・13(金)19:OO・14(土)14:00・19:OO・15(日)14:00
●前売=2,500円/当日=3,000円
名古屋で小劇場演劇を続けて20余年。今井良実が演劇生活の句点となる作品を創る。作者は共に演劇創造を歩んだ沖田騒児。オリジナル書き下ろし。
劇団B級遊撃隊「インド人はブロンクスヘ行きたがっている」
●作=イズレイル・ホロヴィッツ
●訳=松沢八百●演出=竹内銃一郎
●11/21(土)15:00・19:00・22(日)14:00・18:00・23(祝)14:00・
18:OO・24(火)19:OO
●前売=2,500円/当日=2,800円
名古屋で一番人気のB級遊撃隊が、初めて翻訳劇に挑戦する。演出するのは、密度の高い劇的世界をつくる竹内銃一郎。グレードアップした舞台が期待される。
東京サンシャインボーイズ
「もはや これまで」
●作/演出=東京サンシャインボーイズ
●11/28(土)19:00・29(日)14:00・19:00・30(月)19:00・
12/1(火)19:00
●前売=3,500円/当日=3,800円
「12人の優しい日本人」で大あたり。都会をテーマにユーモアとペーソスに満ちた舞台で話題集中の劇団が名古屋初お目見え。「なにもそこまで」に続く書き下ろし作品。
プロジェクト・ナビ・プロデュース
「岸田國士戯曲SHOW」
●作=岸国國士●演出=北村想
●12/10(木)19:OO・11(金)19:00・12(土)19:00・13(日)14:00
●前売=2,500円/当日=3,000円
(一部指定=前売・当日共=3,OOO円)
名前はみんな知っているのに、だれも知らないその人の戯曲。その岸田國士の戯曲に、あのナビが挑む。北村ワールドとは一味違った世界!
新宿梁山泊
「それからの夏
それからの愛しのメディア」
●作=鄭義信●演出=金盾進
●12/17(木)19:00・18(金)19:00・19(土)14:00・19:00・20(日)14:00
●前売=3,000円/当日=3,500円
演劇界で今最もバイタリティあふれる梁山泊。今春上演した「愛しのメディア」のその後を続いて上演する。作者と演出家と役者が、激しくぶつかりあい、舞台に火花を散らす。書き下ろし作品。
名古屋むすめ歌舞伎
「梅川忠兵衛」−封印切から新口村−
恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)
●作=近松門左衛門●企画=藤田洋●監修=市川猿之助
●演出=市川右近 石川耕士●演出補助=市川笑三郎
●12/24(木)18:30・25(金)14:00・18:30・26(土)14:00・
18:30
27(日)14:00
●前売=4,500円/当日=4,000円
大胆に、過激に、現代の歌舞伎を創造する市川猿之助。男の歌舞伎を女で演じ上げる名古屋むすめ歌舞伎。この二つの異能が近松の名作に挑む。
岡部雅郎「陽なたの干しぶどう」
●作=ローレン・ハンスベリー
●演出=伊藤敬(演出補:岡部雅郎)
●12/4(金)18:30・5(土)14:00・18:30・6(日)14:00・18:00
●前売=(一般)2,500円(学生)1,500円
/当日=(一般)2,800円(学生)1,800円
見果てぬ夢のその果ては陽のもと干葡萄のごとくしなび乾るものか。人間の尊厳を問う。
内山千吉“93年のちのチェーホフ"
「三人姉妹」
●作=アントン・チェーホフ
●演出・美術=内山千吉
●1/21(木)18:30・22(金)18:30・23(土)13:30・18:00・24(日)
13:30・18:00
●前売・当日共=3,000円
チェーホフの書いた93年前のロシアを見て、忘れかけている、人間の日常性の中の試練を再考してみる。
劇座「開花堂暦話」
●作=麻創けいこ●演出=天野鎮雄
●平成5年3/19(金)〜27(土)
●前売=(一般)3,000円(中高生)2,000円
当日=(一般)3,500円(中高生)2,500円
劇座は、全国に舞台中継された名古屋弁喜劇「フィガロの結婚」(木村光一演出)などで、度々同じ舞台を踏んできた名古屋の5名の役者(天野鎮雄、山国 昌、たかべしげこ、岩川 均、犬嶽隆司)により1985年に結成された。翌86年8月に旗揚げ公演として木村光一演出によるジョルジュ・フェドー作の喜劇「浮気は死ぬ気で」(原題「旦那様は狩りにお出かけ」)を上演。以後、1年に2回以上の劇場公演と何回かの小公演を重ねている。付属俳優養成所として「名古屋劇塾」を持ち、この6年の間にその卒業生から選ばれた研究生、準座員、座員も増えて、現在総勢34名。
創立されてまだ短い年月ながら、その舞台は新聞紙上でも高く評価され、芸達者ぞろいの、名古屋の代表的な劇団として一般に認められている。
|