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愛知県美術館所蔵作品選

パウル・クレー Paul KLEE
1879-1940

回心した女の堕落
Relapse of a Converted Woman
(Rckfall einer Bekehrten)
1939年 油彩・グワッシュ、紙 49.5×35.0cm
1939 Oil and gouache on paper

スイス、ベルン郊外のミュンヒェンブフゼーに生まれる。ミュンヘンの美術学校でフォン・シュトゥックに師事し、かつツィーダラーから銅版画の技法を学んだ。イタリア旅行と帰郷、婚約ののち再びミュンヘンに移住。1911年以降〈青騎士〉の画家たちと交友。14年、アウグスト・マッケらとともにチュニジアヘ旅行。この旅は、クレーが独特の色彩感覚を開花させる契機となった。その後、21年に造形芸術のための総合学校バウハウスに教授として招かれ、のちデュッセルドルフの美術学校で教壇に立った。31年、ナチスの台頭にともない辞職を余儀なくされ、33年にはベルンに隠棲。晩年の大病を克服し、生涯を通して9000点にものぼる作品を残した。ロカルノー近郊ムラルトにて没。
1935年に難病、皮膚硬化症を患ったクレーは、それまでの細かい筆遣いが不可能となり、ついには一切の創造行為を断念した。しかし、そこから奇跡的に立ち直った彼は、何者かにとりつかれたかのように精力的な制作へと没頭した。身体の各部が単純な幾何学形に分解された《回心した女の堕落》の様式は、ときに野太く、ときに針のごとくに細い線をもって動物や人間を記号化するという彼の晩年に特有のものである。このモデルの姿には、彼が元来抱いていた人間の愚かしい内面に対する諷刺と、自身の大病後の死生観が表出されている。垂れた両乳房も露わな胸部には、深紅の十字架こそ下がっているが、見開かれた眼孔の一方は既に血走り、罪を犯した者の常ならぬ精神状態を自ずと物語る。鮮烈な紅色系の絵具は、独り堕ちてゆく悲劇的な女の激情を、一種緊張感をもって高揚させている。(R.T.)


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