ダンスオペラ「UZME」


「春の祭典」('00)「カルミナ・ブラーナ」('02)「悪魔の物語」 (「兵士の物語」より '03)「月に憑かれたピエロ」('03)「青ひげ城の扉」 (「青ひげ公の城」より '04)と、タイトルを並べただけで<ダンスオペラ>を 標榜する愛知芸術文化センターのプロデュース公演は、 なかなか意欲的なものであることが瞭然とする。
 作曲家でいうと、ストラヴィンスキー、カール・オルフ、シェーンベルク、バルトークと なり、それぞれ独特のドラマを内在した20世紀の著名な曲がとり上げられている。 ダンスは、笠井叡、大島早紀子、シルヴェストリン、ユーリ・ンなど、 愛知芸術文化センターと芸術的な共感をもって以前から創作に取り組んできた尖鋭な 舞踊家が、主体となって舞台を創っている。 そしてまた、100名のオーケストラ演奏による「春の祭典」から始まり、 歌唱、合唱、語り、能というふうに、常に新たなジャンルと積極的なコラボレーションを 行っている。
 すると、次の<ダンスオペラ>は、どのような題材をとりあげるのだろうかと、 われわれ観客も興味を持つことになる。
 それは、「古事記」に由来する<天の岩戸>の神話であった。 弟スサノヲの所業に怒ったアマテラスが、岩屋に籠り、世界は闇に閉ざされてしまう。 困惑した神々が知恵を絞って、アマテラスを誘き出すために、岩屋の前で賑やかな祭りを催す。 ウズメはそこで魅惑的に踊って、観客の神々をおおいに沸かせ、アマテラスを招き出すこと に成功した女神である。 ウズメこそは日本開びゃくのダンサーであった。
 また<天の岩戸>の神話は、闇の中でウズメのダンスに期待する神々のさんざめきや、 そのステップを導く音曲、喝采などが今にも聴こえてきそうな、じつに音楽性豊かな エピソードだということにも留意すべきだろう。
 ダンスオペラ「UZME」は、全体を序章と四章に分け、無秩序の光と暗黒の混沌から 光の復活を描いている。 「古事記」に現れた壮大な光と闇のドラマによって、現代の光と闇の相克を 浮かび上がらせようとチャレンジした作品であり、<愛・地球博>に呼応するのに 相応しい祝祭的な主題である。
 ソロが存分に観られたルジマトフのダンスが白眉であった。 さすがに雄大なロシアの大地から生れたダンサーである。 大きな舞台でゆるぎない神話的なエネルギーに満ちた美しさを見せた。 昨年の「レクイエム」に続く笠井叡の優れた振付と、ルジマトフのダンスの力が 見事に融合して、悠揚迫らざる美しい舞台を出現させた。 白河直子のウズメの巧緻なダンス、新上裕也のパワフルなダンス、そして麻実れいの アマテラスの完璧なヴィジュアルは、手塚眞の細心の演出のひとつの成果だろう。
 さらに今回の舞台では、新たなコラボレーションとしてオイリュトミーがとりいれられた。 笠井が主宰するペルセパッサ・オイリュトミー団20名が白衣を纏い、 コロスとして「古事記」の群読を行い、神話の生命力を詠った。 これは笠井によると、「言葉の力とダンス」を「意識的に再構築」しようとしたものであり、 意味の伝達というより、言葉の響きそのものの力をダンスの動きと形に結び付け、 「意味という岩戸から人間の身体を解放」しようとした試み、ということである。
 つまり、音楽と言葉とダンスを根幹として、他のジャンルとともに「意識的に再構築」し、 21世紀の舞台芸術の地平を拓く、これが愛知芸術文化センターが主唱する、 ダンスを中心とする総合芸術<ダンスオペラ>の思想である。 そして「UZME」は、そのひとつの「美しい楔」であろう。      

関口紘一(舞踊評論家)

Photo : Hidemi Seto