異文化は演劇を進化させる


演劇の面白さは異文化との格闘にある。
地球上に存在する多様な文化は人類が長い時間をかけて作り上げてきたものであるが、 民族や国が違うと文化の様相も違い、不信や不安を生み出すという厄介なものでもある。 演劇はこうした厄介なものに出会うと闘志をたぎらせ、作品を進化させる性癖を持っている。

第5回を迎えた今年の愛知県芸術劇場演劇フェスティバルのテーマは「異文化との出会い」 であった。この年「自然の叡智」をテーマとした万博『愛・地球博』が、 3月25日から愛知県長久手町を主会場にして開催されることに決まり、 それに因んでのテーマの設定であった。全国から応募があった20作品から選ばれたのは、 演劇を進化させようという意欲にあふれた次の4作品で、4月、5月にそれぞれ4公演ずつ 愛知県芸術劇場小ホールで上演された。

流山児★事務所(東京) 「ハイ・ライフ」(4月15日〜17日)
うずめ劇場(北九州) 「ねずみ狩り」(4月22日〜24日)
劇団B級遊撃隊(名古屋)
「破滅への二時間、又は私達は如何にして『博士の異常な愛情』を愛するようになったか」(5月13日〜15日)
小三郎劇場(名古屋)
ネオ狂言「殿姫愛遊戯」(5月20日〜22日)


挑戦的だった4作品


「ハイ・ライフ」(演出 流山児祥)の原作者はカナダ人。
麻薬中毒の4人の男が麻薬を入手するために銀行強盗を企み、仲間割れで失敗するという サスペンスコメディであったが、ひとりカナダだけでなく、自由市場経済で豊かさを 謳歌しながら、一方で貧富の差が広がる成熟社会への諷刺が鮮明だった。

「ねずみ狩り」(演出 ペーター・ゲスナー、藤沢友)の原作はオーストリアを拠点に 活躍する作者。演出は旧東ドイツで演出家として活躍後来日、北九州で劇団を立ち上げた 演出家。
ふと知り合った若い男女がゴミの山へドライブ、そこで二人が理解しあったことは、 人間はひたすらゴミを作り続ける動物だということである。二人は虚飾の着衣、持ち物を すべてかなぐり捨て、原始のアダムとイブとなって結ばれる。が、二人はねずみと間違えられ、 ハンターに射殺される。人間にとって虚飾は必要なものなのか、難題を提起した衝撃的な 舞台であった。

「破滅への二時間・・・」(作 佃典彦、演出 神谷尚吾)の原案はアメリカ映画で 封切は1963年。米ソ冷戦時代の核兵器戦争を直視した恐怖の喜劇であった。
今回はこの恐怖を仮想のゲームソフトの世界で描いた。北朝鮮が弾道ミサイルで日本を攻撃、 ブッシュ大統領の秘密指令で、米潜水艦が北朝鮮攻撃に向かうという恐ろしい展開で、 小泉首相らが実名で登場し、深刻辛辣な喜劇であった。

「殿姫愛遊戯」はアントン・チェホフ『結婚申し込み』(脚本 西田豊子)と既存の大蔵流 『濯ぎ川』(中世フランス喜劇『洗濯桶』から飯沢匡の脚本、武智鉄二の演出)を合体構成 した野村小三郎の着想、補級、演出、主演が見事だった。
隣家の娘にプロポーズしようとした男が、遠地の所有権で口論となりプロポーズができない。 若い男女は障害を乗り越え結婚するが、男が家事一切、妻の下着まで洗濯させられるという、 ユーモアが笑いを誘った。

全体として感じたことは、人類は文化と関係なく問題を共有しているということである。 字数の制約から演技、スタッフのことにふれられなかったが、一般公募の審査員の採点に よって選ぶグランプリ賞は、「ハイ・ライフ」が獲得した。首肯できる結果であった。

河野光雄 (名古屋演劇ペンクラブ理事長)

Photo : Toyohiko Yasui