自然をめぐる千年の旅 山水から風景へ


日本美術を代表する平安時代の絵巻の傑作、国宝 《信貴山縁起絵巻》(朝護孫子寺蔵)。 3巻から成る絵巻の中でも、鉢が米倉を載せて飛んでいく場面で有名な「山崎長者の巻」 (別名「飛倉の巻」)では、現代のアニメーションにも通じる、躍動感あふれる飛翔の表現に 魅了されます。2005年日本国際博覧会記念特別展「自然をめぐる千年の旅—山水から 風景へ—」では、この《信貴山縁起絵巻》「山崎長者の巻」を、全期間通じてご覧いた だくことができます(ただし作品保護のため、部分替を行います)。

この絵巻では、信貴山に住む命蓮上人が起こした不思議な出来事が語られます。 「山崎長者の巻」を見てみましょう。命蓮は、自分は信貴山にいながらにして、法力で鉢を 飛ばしてお布施を受けていましたが、山城国・山崎に住む長者が、飛んできた鉢を米倉に 入れたままにしてしまいました。すると鉢が倉から出て、倉を載せて舞い上がり、 そのまま信貴山へと飛び戻ってしまうのです。驚きその後を追う人々の描写が秀逸です。 長者は倉を追って信貴山に至り、命蓮に返却を請うて、倉の中身の千俵ある米俵を返して もらえることになります。命蓮の指示で鉢に米俵を一俵載せると、舞い上がるその鉢に続いて、 今度は他の米俵が続々と雁などの群れのようにその後をついて長者の家まで飛んでいくのです。 倉や千俵もの米俵など、飛ぶはずのない重いものが軽々と飛翔してしまう表現は、観る者に 爽快なカタルシスをもたらします。この法力の物語は、紅葉に彩られた信貴山の情景の中で 語られ、実は聖なる山・信貴山こそが絵巻の真の主役であることが示されています。 このような、人々の営みを包み込むような自然のあり方は、日本人が抱く自然イメージの 一つの特徴ではないでしょうか。

特別展「自然をめぐる千年の旅—山水から風景へ—」は、大阪万博以来の 国際博覧会の主催事業ならではの大展覧会です。本展は、万博のメインテーマ「自然の叡智」 にちなみ、古代から近代に至る日本人と自然との関わり、その自然観を、各時代の絵画を 中心とする美術作品を通してたどるものです。通常の展覧会では実現不可能な規模で、 日本美術の名品が一堂に並びます。専門家の間ではよく知られた、池大雅の傑作の一つ、 重要文化財 《瀟湘勝概図屏風》(前期展示)や、渡辺崋山の代表作の一つ、 重要文化財 《四州真景図巻》(全期間展示、ただし部分替)など、展覧会で めったに見ることのできない名品をご覧いただけるのも、万博の機会ならではといえます。
また、作品保護の関係で、4月10日までの前期と、4月12日からの後期とでほとんどの 作品が入れ替わるため、実質的には展覧会2回分に近い内容となっています。各半期の中でも 小規模な展示替が行われます。お目当ての作品を見逃されないよう、出品作品と展示期間を あらかじめ当館のホームページ等でご確認いただくことをおすすめ致します。 本展が、今後の人と自然との関わり方などについても思いをめぐらす機会となれば幸いです。
 
(MMa)