プレ愛・地球博  プラチナ・ガラコンサート


愛・地球博の開幕まで、約一ヶ月となった2月19日、プレ愛・地球博  《プラチナ・ガラコンサート》 〜光り輝くソリストによるコンチェルトの饗宴〜が、 世界を舞台に活躍するソリストと、井ア正浩指揮の名古屋フィルハーモニー交響楽団の共演で、 華やかに開催された。

初めに、コンサートホールの大パイプオルガンと、この演奏会のために委嘱された新作、 「ファンファーレ〜被造物の賛歌」が、会場の空間を満たした。 作曲の斉木由美は愛知県立芸術大学を卒業後、パリ国立高等音楽院を卒業、 日本音楽コンクール第2位など数々の受賞歴と多くの委嘱作品で活躍中。
愛知万博のテーマ「自然の叡智」を意識して、聖書の一節「全地よ、主に向かって喜びの 叫びをあげよ」から着想された。冒頭に現れる短い動機が様々に変質されて繰り返し現れる。 それはすべての生命体の力強い営みを聴くようであり、広大な音場のそこここから沸きあがる 命のきらめきが感じとれるファンファーレ。 オルガンの独奏は藤枝照久。確かな手触り感のあるこの曲の質を活かす、力溢れる演奏で あった。

その藤枝のソロによる、プーランクの「オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲」は、 演奏台を舞台上に移しての緊密なアンサンブルである。オルガン、弦楽、ティンパニの三者が 競い合うのではなく、同質のサウンドの中で協調し、響きの厚みと色調のグラデーションを 醸し出すスタイル。打楽器のティンパニも、音色構成の重要な要素である。 珍しいこの編成ならではの、めったに味わう事のできない貴重な音楽体験である。

続くラロ「スペイン交響曲・作品21」は、渡辺玲子のヴァイオリン・ソロである。 日本を代表する俊英の一人で、ニューヨークを拠点に国際舞台で活躍中。 ヴァイオリンの巨匠サラサーテからの委嘱で書かれたこの曲は、楽器の高い技巧が要求され、 機能美に優れる。渡辺の音色には温かみと艶があり、第2楽章で顕著だった自由な アゴーギグを初め抜群の運動性、弾き伸ばす音色の多彩なニュアンスなど、すみずみまで 語りつくした感があった。

後半のバルトークの「ヴィオラ協奏曲」は、この作曲家の死の年1945年に着手され、 未完に終わったが、残された草稿を元に弟子のティボール・シェルシがオーケストレーション を、作曲を依頼したヴィオラ奏者、ウィリアム・プリムローズがヴィオラパートを編纂した。 現在ではコンクールのファイナル課題曲となることも多く、演奏機会は比較的多いヴィオラの 重要なレパートリーである。ソリストは清水直子。2001年より、ベルリン・フィル首席 ヴィオラ奏者を務めるなど、ソロ、室内楽、オーケストラと世界を舞台に広く活躍している。 冒頭から音色とフレージングに深い呼吸が感じられ、中低音には力があり、細かいパッセージ にドライブ感もある。知・情・意が高次元でバランスする演奏。 オーケストラは悠然としていて、ソロを支える対比感のある場面が際立っていた。

野平一郎のピアノ独奏による、ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第4番ト長調・作品58」 がこのコンサートの最後を飾った。細身ではあるが、透明度が高い音色。和音になると 完全に共鳴して広がりのある音響場が立ちあがる。冒頭に現れるモチーフが、広い音域に 展開されていくどの瞬間も、音楽の空気が滞ることなく流れ、虹のごときサウンドが展開する。 作曲家でもある野平の透徹の眼差しが生きている構成力も同時に感じられ、さすがの演奏と 言えよう。オーケストラも一段と集中して、特に第2楽章から第3楽章に移るあたりの 静寂感と緊迫感の表出は、洗練された音楽美の結晶であった。
万博をまじかに控えたこの時期に、とにかく贅沢な演奏者と曲の饗宴を十二分に堪能した 《プラチナ・ガラコンサート》の夕である。

渡辺 康(作曲家・音楽評論家/名古屋音楽大学講師)

Photo : Kosaku Nakagawa