ウォーターウィッチ
w a t e r w i t c h
〜漂 流 姉 妹 都 市〜


スエヒロケイスケは、時代の気配を敏感にすくい取り、現代を生きる人々の鬱屈とした 感情や心の揺らぎをつぶさに描きだす、当地でいま最も注目の劇作家だ。 そのスエヒロが手がけた『water witch〜漂流姉妹都市〜』が、愛知県文化振興事業団の 主催する第4回AAF戯曲賞で優秀賞を受賞し、昨年末に公演が行われた。
このAAF戯曲賞は上演を前提とした全国公募による戯曲賞で、本作は70作品の中から 優秀賞を獲得。上演にあたっては、スエヒロが座付き作家を務める東京の劇団 tsumazuki no ishiの寺十吾を演出に迎えた。

“女の生命力”に焦点を当てて書かれた本作は、地方郊外の女性専用マンション が舞台だ。29年もひきこもり続ける40代半ばの長女イツカと、共依存状態にあるうつ病の 次女ナカバ、腹違いで年若い遊び人の三女ハルキの大家3姉妹は屋上のプレハブに暮らしている。
その屋上へ、ハルキに秘密を握られ脅されている賃貸物件仲介業者の営業カマチや、 暴走族取締課の私服警官で張り込みを目的に入居するダテ、部下のヤスオ、ジェンダー論を 展開するインターネットのサイトオーナーである住人ユーミンとその客アラタ、そして イツカから入居を許されているオカマでゲイのヘドウィグが出入りし物語は展開していく。

劇中の女たちは現状に苛立ちやジレンマを抱え日々をやり過ごしているが、 ある時ヘドウィグが持ち込んだ「食卓」が状況を変化させる。
濁流渦巻く屋上に置かれた食卓はいわば、他者や外界との接点、流れを分かち方向を 転換させるきっかけの「場」だ。それは、イツカを外界と対峙させ負の自己表現である 他者への攻撃をとめ、ダテに万引き行為を諭されたナカバを社会生活に向かわせ、 予定外の妊娠をしたハルキに家庭を築くことを決意させる。が、人工授精の話に感化された イツカの「子どもを育てて自分も一緒に育て直したい」という想いは偽装妊娠へ発展し、 ナカバは就職採用試験に落ち続け、ハルキは子どもを抱えて出戻るなど喜ばしい結果には 至らない。そこには何かの転機で自分を変えようとしても簡単にはままらないという 作者の厳しい人生観が垣間見える反面、産着が一面に干されたラストシーンは どこかほのぼのとして、その選択が間違っていようがいまいが、生きることを やめもせず諦めもせず突き進んでいく、人間のエネルギーへの畏敬のようなものを感じた。
作者は特殊な状況下の女性をデフォルメして描きながら、その実は彼女たちと大差なく 不安定な社会で危うい心を抱えて今を生きる多くの人々の姿を描いたように思う。 なぜこんなにも生きるのが難しいのかと煩悶する瞬間は誰にでもあり、だからこそ 一見暴力的な行動や言動が、息苦しいまでの切なさを伴って胸に迫ってくるのだろう。

それを視覚化した寺十の演出では、役者が激昂するシーンにコミカルな動作を加えたり 開放感な舞台構造(劇場の中央に屋上を形づくり、それを双方向から見下ろすように 客席が組まれた)にしたことで、登場人物たちの極限的な感情や切迫感を緩和して見せた 印象を受け、作家とのスタンスや捉え方の違いを興味深く見た。
役者の演技面では、技量のばらつきや役柄の引き出し方にやや指揮不足を感じたものの、 初演に続き熱演を披露した夕沈(イツカ)や圧倒的な存在感を見せつけたベテラン 矢野健太郎(ヤスオ)、その矢野と拮抗した中村栄美子(ダテ)、舞台経験2度目とは 思えないほど奮闘した寶満公子(ナカバ)など個々の健闘ぶりは称えたい。 また、今回は同じ劇団の演出家との組み合わせで上演されたが、演出家の選択肢を 広げることで「愛知からの文化の発信や演劇界の次代を担う人材の発掘・育成」などを 目的とするこの賞や演劇そのものの可能性を広げる挑戦につながるのではないかと感じ、 別のアプローチでもこの作品を観てみたいと思った。
望月夬己(フリー・ライター)

Photo : Toyohiko Yasui