愛知県のバレエ・ダンス界の
総合力を示すクリエイティブな企画

 数ある公立文化施設のなかで、愛知芸術文化センターは、総合的、創造的な企画によって全国でも注目される存在となっている。「あいちダンス・フェスティバル」はその大きな柱である。今年2月に続き、この9月に「ダンス・ファンタジア」とタイトルされて開催されたこのイヴェントは、多くの重要な特徴を持っている。
 その1つは、はっきりとした方針、基準によって作品、出演者を選んでいること。全9作品、まず物語性を持つもの、文学を舞踊化した作品。次に、音楽と動きのシンクロを目指した作品。そして特別プログラムとして世界的な振付者の作品という3部構成になっている。これを縦糸として、愛知で活躍している、あるいは愛知出身のダンサーの起用というもう一本の糸で舞台を織り上げる。この「愛知」という糸は、ダンサーだけでなく、ミュージシャン、そしてすべてではないが振付者にも及ぶ。第3の特徴は〔ダンス・オペラ〕という概念を打ち出したことである。これはダンス、文学(演劇)、音楽(演奏・歌唱)、さらに美術・映像などを有機的に統合しようとするもので、大府市勤労文化会館において、2月に初演された『月に憑かれたピエロ』が再演された。2月には知立市と、この9月には大府市とネットワークを組んで開催したことも、今後を示唆する有効な方式である。
 この企画の狙いは、基本的には観客にバレエ、ダンスに対する興味と知識を与えること。これは地元の舞踊家のPR、ファン作りにもなり、またアーティスト側にとっても、技術や意識の向上につながる。これは愛知の舞踊界が質実ともに充実しているからこそできる企画である。しかし実際には群雄割処のなかでの選択、選別というきわめてタフな作業を必要とする。この2回の公演のなかで愛知の主要団体のほとんどが参加、そしてオーディションによってさらにその範囲を広げたことは大きな成果で、高く評価されよう。
 個々の作品に簡単に触れておく。第1部では、セルバンテスの名作をバレエ化した『ドン・キホーテ』の一部を豊田シティ・バレエ団が、近代バレエの傑作『薔薇の精』を越智友則と森弥生(越智インターナショナルバレエ)の出演で、そしてヘレン・ケラーの三重苦を描いた『奇跡の人』を川口節子が独創性をもって舞台化し感動を呼んだ。第2部では、3つの邦人作品。力あるダンサーを駆使したベン飯田(塚本洋子バレエ団)、ポアントワークを生かした近江貞実(市川せつ子バレエ団など)の無機質の動きに対して、松岡伶子バレエ団の島崎徹作品『OUR SONGS』ではコレルリの古典音楽を、カノンを思わす動きの波で見事に具現した。第3部はガロッタの演劇的でユーモラスな『99DUOS』を倉知可英らが、次いでシルヴェストリンのバルトーク曲による『戸外にてOut Doors』では、パネルに投影した映像とともに、今日的な動きに浅見紘子とオーディションで選ばれた愛知のダンサーたちがよく挑戦。最後は熊川哲也の『パッシング・ヴォイス』。シンプルで美しい美術のもと、荒井祐子と芳賀望(Kバレエカンパニー)が、届かない声のいらだちを表現した。
 大府では一部作品や出演者の変更もあったが、ここでの柱は上述のシェーンベルクの同名の曲による『月に憑かれたピエロ』。唐津絵理の構成・演出、平山素子、上村なおかの振付・演出、歌唱(語り)は荻野砂和子。曲線的で暖色系の平山、直線的で寒色の雰囲気の上村のコンビで、月の光に触発されたピエロとその分身とも幻影とも見える女性の関係とその心象を、ときに激しく、また静かに、そしてエロティックにナイーブに描き出し、音楽、美術と相俟って、この作品のもつ趣を巧みに舞台化した。
 この2回、全体としてこの企画の意図が十分に実現した見所の多い公演となった。

うらわ まこと(舞踊評論家)